史権

史権（し けん）

史権（生没年不詳）は、モンゴル帝国に仕えた漢人軍閥の一人であり、字は伯衡、出身は析津府永清県である。彼は史烜・史焃の父であり、史元亨の祖父にあたる。

生涯

史権の祖父である史秉直は、初期にモンゴル帝国に投降した漢人有力者の一人であった。父の史天倪は父に代わってモンゴル軍に属し、華北各地の平定で活躍したが、1225年に武仙の裏切りによって殺害された。その後、史天倪の弟である史天沢が武仙を討ち、史氏一族の事実上の指導者となった。

史天倪には5人の息子がいたが、幼かった下の3人は史天倪の死と共に命を落とし、年長であった史楫と史権のみが生き残った。史権は史天沢と行動を共にし、南宋との戦いに従事、1252年には河南経略使に任じられた。1254年には鄧州に駐屯し、南宋の将軍である高達を樊城で破る功績を挙げた。当時、史天沢は五路万戸河南経略使、史楫は真定兵馬都総管、史権は鄧州万戸の地位にあり、史氏一族が漢人世侯の中でも屈指の兵力を有していたことが窺える。

1259年、クビライが南宋侵攻のために南下した際、史権は淮西地方でこれを迎えた。しかし、同年には皇帝モンケ・カアンが合州で急死するという事態が発生。クビライはウリヤンカダイ軍を救うため一時的に長江を渡り鄂州を包囲した後、帝位を奪取すべく北上するが、その際史権を長江北岸の武磯山に配置し、南宋への抑えとした。

1260年、クビライは史権を真定・河間・浜棣・邢洺・衛輝等州路、木烈乣軍、兼屯田州城民戸沿辺鎮守諸軍総管万戸に任じた。

1269年、クビライは史権に南宋侵攻の策を尋ねた。史権は「襄陽こそが江陵地方の要衝であり、樊城は襄陽の外郭である。我が軍がまず樊城を攻略すれば、襄陽は抵抗できないと悟り、自ずと降伏するだろう」と進言し、クビライはこの策を採用した。

1270年、南宋軍が北上してきた際、史権は荊子口でこれを打ち破った。クビライはこれを喜び、金500両を下賜したが、史権は部下に分け与え労ったという。その後、南宋の将軍である夏貴が水軍を用いて長江の航行権を奪取しようと攻撃を仕掛けたが、これも史権が撃退した。これらの功績により、江漢大都督・総制軍馬・総管屯田万戸の地位を授けられた。しかし、兄の史楫と共に、史天沢に対し一門で兵・民の権力を占有すべきではないと述べ、隠棲を決意。当初は東平に、後に河間に移り住み、そこで生涯を終えた。

真定史氏

史権の一族は、代々真定（現在の河北省正定県）を拠点とした有力な家柄であり、モンゴル帝国の支配下においても重用された。

参考文献

安部健夫『元代史の研究』創文社、1972年
中嶋敏, 中嶋敏先生古稀記念事業会記念論集編集委員会「池内功「史氏一族とモンゴルの金国経略」」『中嶋敏先生古稀記念論集』（上巻）中嶋敏先生古稀記念事業会, 汲古書院 (発売)、1980年。NDLJP:12208202。
藤野彪／牧野修二編『元朝史論集』汲古書院、2012年
『元史』巻147列伝34史天倪伝
『新元史』巻138列伝35史権伝
『蒙兀児史記』巻54列伝36史権伝

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