吉田隆子

吉田隆子

吉田隆子（よしだ たかこ、1910年2月12日 - 1956年3月14日）は、昭和初期から戦後にかけて活躍した日本の作曲家です。彼女は、阪隆（ばん りゅう）、吉田たか子、西加奈子、吉原澄、吉原澄子など、複数の名義を用いて活動していました。

生涯

東京府荏原郡目黒村（現在の東京都目黒区）に、陸軍少将の父・吉田平太郎の娘として生まれました。幼少期から山田流箏曲を学び、音楽への関心を深めました。青山師範学校附属小学校、南高輪尋常小学校を経て、日本女子大学附属高等女学校に進学。この頃からピアノを習い始め、音楽の才能を開花させました。

高等女学校卒業後、兄の意向で人形劇団プークの関係者と婚約しますが、後に破談。音楽への情熱を優先し、音楽学者の田村寛貞に師事してハーモニーを学びました。また、南葵音楽文庫で音楽の研究に励み、アテネフランセでフランス語を学ぶなど、幅広い知識を吸収しました。

1931年、築地小劇場に通い始め、劇作家の久保栄と出会います。同時期に、作曲家・橋本國彦に師事し、デビュー作「カノーネ」を発表。しかし、橋本の指導に不満を抱き、菅原明朗の門下へ移りました。また、阪隆名義で発表した論文が『音楽世界』懸賞論文に入選するなど、作曲家としての才能を高く評価されました。

1930年から洋画家の三岸好太郎と不倫関係に陥り、1932年には人形劇団プークの高山貞章と結婚しますが、1935年に離婚。その後、久保栄と20年にわたる不倫関係を続けました。

社会運動にも積極的に関わり、1932年にはプロレタリア音楽同盟に参加。反戦運動のため募金活動を行ったことで逮捕されました。1934年には同盟の東京支部長代理を務めましたが、同盟自体が解散。1935年には自身の楽団「楽団創生」を設立し、バルトークやショスタコーヴィチといった海外の作曲家の作品や自身の作品を演奏しました。しかし、1940年には治安維持法違反で逮捕され、楽団も活動停止に追い込まれました。

戦時中は、反戦主義者でありながら、大政翼賛的な日本音楽文化協会の作曲部正会員として活動。戦後、音楽活動を再開しますが、1950年にNHK出演者レッドパージの対象となります。その後、入退院を繰り返した後、1956年に癌性腹膜炎のため46歳で生涯を閉じました。

作品

吉田隆子は、舞台音楽、歌曲、合唱曲、器楽曲など、幅広いジャンルで作品を残しました。

舞台音楽

人形劇音楽や劇音楽を多く手掛け、特に劇作家の久保栄との共同制作が目立ちます。

人形劇音楽『裸の王様』(1930年)
人形劇音楽『勇敢なる兵士シュベイクの冒険』(1931年)
人形劇音楽『お月様のお話』(1931年)
人形劇音楽『ドン・キホーテ』(1933年)
舞踊音楽『春妖夢』(1935年)
劇音楽『ファウスト』(1935-1936年)
劇音楽『群盗』(1936年)
劇音楽『火山灰地』(1938年)
劇音楽『林檎園日記』(1947年)

歌曲

詩人とのコラボレーションによる作品も多く、その多くが今日でも歌い継がれています。

ポンチポンチの皿廻し(1931年)
鍬(1932年)
2つの悲しい小唄(1932年)
月夜
アルルカンの悲しみ ― カーナバル
雪 ― 子守唄風に(1932年)
田をうないつつ(1932年)
2つの短歌による組曲(1933年)
死んだ娘のうた(1934年)
貝殻墓地(1935年)
蚤の歌(1935年)
メフィストフェレスの小夜曲(1935年)
ヘクトールの別れの歌(1936年)
生活(1936年)
組曲『道』(1946年)
樹
鍬
頬
手
君死にたもうことなかれ(1949年)
晶子祭(1949年)
お百度詣(1953年)
オペラ『君死にたもうことなかれ』より「わが恋は」(1954年)

合唱曲

社会的なテーマを扱った作品も多く、彼女の思想を反映しています。

兵士を送る(1932年)
小林多喜二追悼の歌(1933年)
年老いし彼は商人(1936年)
底流(1938年)
ばらーど
六歩の中
鉄はこうして
晶子祭(1949年)
お百度詣(1953年)

器楽曲

ピアノ曲や室内楽曲など、多様な編成の作品を手掛けています。

ピアノのための『カノーネ』(1931年)
弦楽四重奏曲『ソナチネ』(1932年)
2挺のヴァイオリンのための『青年の歌』(1933年)
弦楽合奏とティンパニーのための『無題』(1935年)
ピアノのための『バラード』(1937年)
組曲『北国の季節から』(1947年)
ヴァイオリンソナタ ニ調(1952年)
ヴァイオリンのための『お百度詣』(1953年)

著書

『音楽の探求』(1948年)

評価

吉田隆子は、その波乱に満ちた生涯と、社会に対する強い関心、そして豊かな音楽的才能により、多くの作品を残しました。プロレタリア音楽運動にも参加し、その作品は社会的なメッセージを持つものが少なくありません。女性作曲家としても、その先駆的な存在として評価されています。

参考文献

辻浩美『作曲家・吉田隆子 書いて、恋して、闊歩して』教育史料出版会、2011年。
辻浩美 著「16. 日本の女性作曲家」、小林緑 編『女性作曲家列伝』 189巻、平凡社〈平凡社選書〉、1999年。

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