吉谷久雄

吉谷久雄：松竹蒲田撮影所の喜劇スター

吉谷久雄（よしたに ひさお、1903年10月30日 - 没年不詳）は、日本の俳優です。広島県尾道市出身で、本名は石井清一、旧芸名は市川喜有利です。

俳優としての歩み

吉谷の俳優人生は波乱に満ちていました。広島県立福山中学校を中途退学後、朝鮮や大連を放浪。その後、歌舞伎役者として活躍した後、1924年に松竹蒲田撮影所に入社し、映画俳優としての道を歩み始めます。当初は時代劇の端役でしたが、持ち前の小柄な体格と愛嬌のある顔立ちを生かし、現代劇で頭角を現していきます。

1927年には『すね者』で主演を務め、同年に準幹部に昇進。翌年には牛原虚彦監督作品で鈴木傳明主演作の常連三枚目として活躍するようになります。鈴木とは公私共に非常に親しく、兄弟のような関係を築きました。

同時期に、松竹蒲田撮影所が力を入れていた短篇喜劇にも数多く出演、人気を博しました。鈴木傳明と共演した『彼と人生』（1929年）では、横尾泥海男演じる「大きな労働者」に対して「小さな労働者」を演じ、絶妙なコントラストを生み出しました。

1931年、鈴木傳明と共に松竹蒲田撮影所を退社。不二映画社の設立に参加しますが、1933年には同社が解散。その後は古川ロッパの劇団「笑の王国」に参加し、写真化学研究所（後の東宝）の『音楽喜劇 ほろよひ人生』にも出演しました。この作品では、再び横尾泥海男と共演し、「親泥棒」と「子泥棒」のコミカルなコンビを演じています。

その後、京都の日活太秦撮影所、日活多摩川撮影所、そして大映東京撮影所と移籍を繰り返しながら、主に脇役として活躍を続けます。1950年の『浅草の肌』が最後の出演作品とされ、それ以降の消息は不明でした。しかし、牛原虚彦の著書『虚彦映画譜50年』（1968年）で、既に故人であることが記されています。

吉谷久雄のフィルモグラフィー

吉谷久雄が出演した作品は膨大で、松竹蒲田時代から日活、大映時代まで多岐に渡ります。ここでは代表的な作品をいくつか紹介します。

松竹蒲田撮影所

『すね者』（1927年）：主演
『近代武者修行』（1928年）
『彼と人生』（1929年）：鈴木傳明と共演
『朗かに歩め』（1930年）：小津安二郎監督作品
『若者よなぜ泣くか』（1930年）
『マダムと女房』（1931年）：トーキー作品

不二映画

『栄冠涙あり』（1931年）
『熊の出る開墾地』（1932年）

P.C.L.(写真化学研究所)

* 『音楽喜劇 ほろよひ人生』（1933年）：横尾泥海男と共演

日活、大映

日活、大映時代は多くの作品に出演しており、時代劇から現代劇まで幅広く演じています。上記以外にも多数の作品に出演。多くの作品はサイレント映画であり、現存するプリントも限られています。

没後

1950年以降の消息は不明でしたが、牛原虚彦の著書により、既に亡くなっていたことが判明しました。没年については不明です。

まとめ

吉谷久雄は、時代劇から喜劇まで幅広い役柄をこなし、独特の芸風で観客を魅了した俳優でした。特に松竹蒲田時代には、数々の短篇喜劇で主演を務め、その活躍は多くの人々の記憶に残っています。彼の豊かな表現力とコミカルな演技は、日本の映画史に貴重な足跡を残しました。 彼の没後、多くの情報が失われてしまったことは残念ですが、残された作品を通して、その魅力を改めて感じることができます。

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