写真化学研究所(PCL)とは
写真化学研究所(しゃしんかがくけんきゅうじょ、英語表記:Photo Chemical Laboratory Co., Ltd.、略称:P.C.L.)は、かつて
東京に存在した日本の映画会社です。
1929年(昭和4年)に設立され、現在の
東宝の前身となった一社として知られています。また、同名の株式会社写真化学研究所が
1951年(昭和26年)に設立され、こちらは現在の
ソニーPCLの前身となっています。
先駆的トーキーシステムの開発
写真化学研究所は、
サイレント映画が主流だった時代に、
トーキー映画の先駆けとなる活動を行いました。創立者である増谷麟、植村泰二らは、現像や
トーキーの光学録音機材の研究、撮影現場での録音請負を目的として、1932年(昭和7年)に研究所を設立しました。
当時の日本では、まだ
トーキー映画は一般的ではなく、
マキノ・プロダクションがディスク式
トーキーの研究を進めていましたが、本格的な
トーキー映画の製作はまだ始まったばかりでした。そのため、写真化学研究所は当初、録音の請負受注に苦労しました。
そこで、1932年(昭和7年)10月25日、研究所内に
トーキーステージを備えたレンタルスタジオを開設し、
トーキー映画の製作を希望する映画製作者を呼び込みました。しかし、提携していた
日活が契約を破棄したため、自社で映画製作を行うことになりました。
自社製作への進出
1933年(昭和8年)、
映画監督の
木村荘十二を迎え、
森岩雄を招いて、劇映画の自社製作を開始しました。第一作は、
徳川夢声を主演に迎えたミュージカル・コメディ『音楽喜劇ほろよひ人生』です。この作品は東和商事映画部(後の
東宝東和)の配給で公開され、好評を博しました。その後も『純情の都』などの作品を制作し、同年12月には製作部門を子会社化、「株式会社
ピー・シー・エル映画製作所」を設立しました。
「
ピー・シー・エル映画製作所」は、独自の配給ルートを確立し、P.C.L.のロゴと共に、「製作・配給
ピー・シー・エル映画製作所、録音・現像 冩眞化学研究所」とクレジットされるようになりました。当時、同社は
ハイカラな喜劇やオペレッタ映画を多く制作し、その特徴から「ポーク・カツレツ・ラード揚げ」と評されることもありました。
技術開発と人材
写真化学研究所では、技術開発も積極的に行われました。工作部長を務めた杉本京太は、1915年(大正4年)に邦文タイプライターを発明した人物であり、同社で1936年(昭和11年)には国産小型
トーキー映写機を完成させました。杉本はこの頃、植村が社長を兼務する光学録音機械メーカー「日本光音工業」の取締役技師長にも就任しています。また、ソニーの創業者である
井深大も、
早稲田大学卒業後に入社し、日本光音工業に移籍しています。
1937年(昭和12年)8月26日、写真化学研究所とその子会社「
ピー・シー・エル映画製作所」、大沢商会の「ゼーオー・スタヂオ」、阪急資本の「
東宝映画配給」の4社が合併し、「
東宝映画」が設立されました。旧ゼーオー・スタヂオは「
東宝映画
京都撮影所」、旧
ピー・シー・エル映画製作所と旧写真化学研究所は「
東宝映画
東京撮影所」となりました。当初は
京都が時代劇、
東京が現代劇を担当していましたが、
東京の施設拡充により、時代劇も制作できるようになり、
京都撮影所は1941年(昭和16年)に閉鎖されました。その後、「
東宝映画」は1943年(昭和18年)に
東京宝塚劇場と合併し、現在の
東宝となりました。
戦後の
1951年(昭和26年)3月16日、増谷麟と植村泰二は再度「株式会社写真化学研究所」を設立しました。1970年(昭和45年)には、かつての社員であった
井深大が築いたソニーの傘下に入り、「ソニーピーシーエル株式会社」(
ソニーPCL)と社名を変更し、現在に至ります。
写真化学研究所は、日本の映画史において、
トーキー映画の黎明期を支え、多くの才能を輩出した重要な存在です。その技術力と革新的な取り組みは、後の日本の映画界に大きな影響を与えました。
関連事項
ピー・シー・エル映画製作所(森岩雄)
ソニーPCL(増谷麟、植村泰二)
大沢商会:J.O.スタヂオ(大澤善夫)
東宝映画配給:
東宝映画(
小林一三)
東宝:東宝スタジオ
東和商事:
東宝東和(
川喜多長政)
ソニー(井深大)
参考文献
『
東宝特撮映画全史』監修
田中友幸、
東宝出版事業室、1983年12月10日。
ISBN 4-924609-00-5。
外部リンク
* P.C.L. Eiga Seisaku-jo、P.C.L. Shashin eiga kenkyu-jo、P.C.L. Manga-bu、P.C.L. Co. Ltd.:Internet Movie Database (英語)