同伴者

同伴者（どうはんしゃ）とは

同伴者（どうはんしゃ、ロシア語: Попутчик、英語: Fellow traveler）とは、ある特定の思想や運動に共鳴し、支持や協力をするものの、組織に積極的に参加するほどではない人物を指す言葉です。この言葉は、特に20世紀初頭の革命運動や文学の世界でよく用いられました。

概要

「同伴者」という言葉は、革命家レフ・トロツキーが1923年に発表した文芸論集『文学と革命』で使用した「革命の同伴者」（попутчики：パプーチキ）という呼称に由来します。ソビエト連邦体制下のロシアにおいて、社会主義革命を支持するものの、プロレタリアートの世界観に完全には同調できない知識階級（インテリゲンツィア）出身の作家を指す言葉として広まりました。

1925年のソビエト連邦共産党「文学に関するテーゼ」では、同伴者作家たちが持つ文化・文学的技術の高さや、彼らの団体の内部に必然的な動揺があることを指摘しています。その上で、彼らの一部に見られるブルジョア的な社会観・文学観と闘いながら、彼らを革命的なプロレタリアートの陣営へと導く必要性が説かれました。

同伴者作家には、セルゲイ・エセーニン、ボリス・ピリニャーク、コンスタンチン・フェージン、イサーク・バーベリ、フセヴォロド・イヴァーノフ、ニコライ・チーホノフ、レオニード・レオーノフ、ミハイル・ブルガーコフ、イリヤ・エレンブルグ、ミハイル・ゾーシチェンコなど、旧知識人系、農民系、都市小市民系など、様々な背景を持つ作家が含まれます。また、亡命から帰国したアレクセイ・ニコラエヴィッチ・トルストイや、雑誌『レフ』（LEF、芸術左翼戦線）を主宰したウラジーミル・マヤコフスキー、同誌に作品を発表したボリス・パステルナークなども同伴者と呼ばれました。

同伴者作家たちの主要な発表の場は、文芸雑誌『赤い処女地』（Красная новь、クラスナヤ・ノーフィ）でした。しかし、ロシア・プロレタリア作家協会(РАПП、ラップ）などからは、しばしば政治的な非難や攻撃の対象となりました。同誌編集長で批評家のアレクサンドル・ボロンスキーは、中心的な組織者として質の高い作品を残し、同伴者文学の芸術性を擁護したことで高く評価されています。

1932年4月のソビエト連邦共産党中央委員会決議により、ラップを含む多傾向の文学団体はすべて解散し、ソビエト政権を支持する全作家は単一組織に再編成されることになりました。1934年8月にソビエト連邦[[作家同盟]]が成立すると、「同伴者」という言葉は次第に使われなくなっていきました。

日本での用法

日本では、プロレタリア[[文学]]運動の組織外にありながら、その立場や主張に近かった野上弥生子、山[[本有三]]、広津和郎、芹沢光治良、片上伸らが同伴者作家と呼ばれました。宮[[本顕治]]は、主に広津和郎を論じた「同伴者作家」（『思想』1931年4月号掲載）という論考を発表しています。

ジョン・エドガー・フーヴァーによる分類

1958年、初代FBI長官ジョン・エドガー・フーヴァーは、自著「Masters of Deceit: The Story of Communism in America and How to Fight It」の中で、共産主義者を炙り出す意図から、「同伴者（fellow traveler）」を以下の5つに分類しました。

1. The card-carrying Communist（IDカードを持ち歩く共産主義者）: アメリカ共産党のメンバーであることを公然と明らかにしている者。
2. The underground Communist（アンダーグラウンドの共産主義者）: アメリカ共産党のメンバーであることを秘匿している者。
3. The Communist sympathizer（共産主義者のシンパサイザー）: 共産主義者と同じ政治的な見解を有するために、潜在的な共産主義者とみなされる者。
4. The fellow traveler（同伴者・同調者・協力者）: 共産主義にシンパシーを抱いているが、影響力のある代弁者でも潜在的な共産主義者でもない者。
5. The dupe（騙されやすい者・まぬけ・カモ・手先・傀儡）: 明らかに共産主義者ではなく、潜在的な共産主義者でもないが、平和主義や少数民族の権利擁護など、その政治的な言動が共産主義者による破壊活動を円滑にする者。

フーヴァーの分類は、マッカーシズムの時代背景を反映したものであり、共産主義に対する警戒心と、それに伴うレッテル貼りの危険性を示唆しています。

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