ボリス・ピリニャーク

ボリス・アンドレーヴィチ・ピリニャーク（1894年 - 1938年）は、ロシア・アヴァンギャルドを代表する小説家の一人です。本姓はヴォーガウ。ヴォルガ・ドイツ系の出自を持ち、その国際的な背景も彼の作品に影響を与えています。

モスクワ近郊で生まれたピリニャークは、幼い頃から文学に親しみ、アンドレイ・ベールイ、アレクセイ・レミゾフ、エヴゲーニイ・ザミャーチンといった作家から影響を受けました。1920年代には、社会主義革命後のロシア社会の矛盾や変化を鋭く捉えた作品を発表し、ゴーリキーに次ぐ人気作家となります。

彼の作品は、モダニズム的な文体と、社会に対する批判精神が特徴です。代表作としては、『裸の年』、『イワン・ダ・マリヤ』などがあります。これらの作品は、当時のロシア社会の混乱や、人々の葛藤を描き出し、国内外で高い評価を受けました。

ピリニャークは、海外との交流も積極的に行い、1926年と1932年の2度、日本を訪問しています。日本の文化や社会に触れた経験は、彼の作品にも反映されています。しかし、海外との繋がりが、スターリン体制下ではスパイ容疑をかけられる要因となりました。

1938年、ピリニャークは「日本のスパイ」という冤罪を着せられ、銃殺刑に処されました。彼の作品は、長らくソ連国内で発禁処分となりましたが、スターリン批判後の1956年に名誉回復がなされ、1975年以降、再び出版されるようになりました。

ピリニャークの作品は、ユーゴスラビアの作家ダニロ・キシュ、ドゥブラヴカ・ウグレシィチ、ミオドラグ・ブラトビッチ（Miodrag Bulatović）などに影響を与えました。

日本語訳
『裸の年』（富士辰馬訳、新潮社、1926年）
『イワン・ダ・マリヤ』（尾瀬敬止訳、新潮社、1925年）
『彼等が生活の一年』（平岡雅英訳、新潮社、1926年）
『日本印象記　日本の太陽の根蔕』（井田孝平・小島修一訳、原始社、1927年）
『ピリニャアク短篇集　ソヰエエト・ロシヤ文芸叢書』（米川正夫訳、原始社、1928年）
『北極の記録 他2編』（米川正夫訳、春陽堂、1932年／ゆまに書房、2009年）
『消されない月の話』（米川正夫訳、春陽堂、1932年）
『ヴォルガはカスピ海に注ぐ』（外川曠訳、先進社、1932年）
『O・K』（原子林二郎訳、鱒書房、1941年）
『機械と狼』（川端香男里、工藤正廣訳、白水社、1973年）
* 『機械と狼』（未知谷、2010年、改訳版）

宮本百合子の『道標』には、ピリニャークをモデルとした作家が登場します。しかし、作中では、宮本百合子をモデルにした主人公に言い寄ろうとする存在として描かれています。

ピリニャークは、20世紀ロシア文学の重要な作家の一人として、再評価が進んでいます。彼の作品は、社会主義体制下の矛盾や、人間の内面を描き出し、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれます。

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