吐延

吐延（とえん、295年? - 329年?）は、吐谷渾の首長であり、その生涯は短いながらも波乱に満ちていました。

慕容吐谷渾の長男として生まれた吐延は、317年に父の死後、首長の座を継承しました。彼の身長は七尺八寸（当時の度量衡で約180cm）と高く、体格は雄偉で、勇気と腕力は人並み外れていたと伝えられています。その武勇から、羌族は彼を中国の英雄である「項羽」になぞらえて恐れ敬ったとされています。

吐延はまた、高い知性と教養を持ち合わせていましたが、世俗的な交わりを好まず、漢の高祖や光武帝の時代であれば、韓信や彭越、呉漢や鄧禹といった名将たちと共に中原を駆け巡り、天下を争っただろうと豪語していたと伝えられています。しかし、その性格は残忍で、自身の才能を過信し、部下や民を慈しむことをしなかったため、人望は篤くありませんでした。

329年、吐延は昂城羌の首長である姜聡によって暗殺されます。剣で体を刺された吐延は、瀕死の状態で子の葉延を呼び寄せ、将軍の紇抜泥に幼い葉延を補佐するように後事を託し、35歳という若さでこの世を去りました。彼の統治期間はわずか13年間でした。

吐延には12人の子がおり、長男の葉延が後を継ぎました。しかし、吐延の死後、吐谷渾は内紛に見舞われ、一時的に衰退することになります。

吐延の生涯は、その武勇と知性、そして苛烈な性格が織りなす悲劇的なものでした。彼は英雄としての資質を持ちながらも、その性格ゆえに人望を得ることができず、若くして非業の死を遂げたのです。彼の死は、吐谷渾の歴史における一つの転換点となり、その後の政情に大きな影響を与えました。

参考文献
『晋書』四夷伝
『宋書』鮮卑吐谷渾伝
『魏書』吐谷渾伝
『北史』四夷伝下

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