呉中 (明)

呉中（ご ちゅう）は、明の時代に活躍した官僚であり、その卓越した建築家としての才能で後世に名を残しました。洪武6年（1373年）に生まれ、正統7年（1442年）に70歳でその生涯を終えました。字は思正といい、高唐州武城県を本貫とします。

呉中は、洪武帝の時代末期に営州後屯衛経歴として官僚としてのキャリアをスタートさせました。建文元年（1399年）には、燕王朱棣（後の永楽帝）が大寧を奪取した際、朱棣に降伏し、その勢力下に入りました。この決断が、彼のその後の人生を大きく左右することになります。

永楽2年（1404年）には右都御史に任命され、政治の中枢に近づきました。永楽5年（1407年）には工部尚書に転じ、建築家としての才能を発揮する機会を得ました。彼は永楽帝の漠北遠征にも従軍しましたが、帰還の際には多くの苦難を経験したと伝えられています。永楽14年（1416年）には刑部尚書に転じ、法務官僚としての側面も担いました。

永楽19年（1421年）、呉中は夏原吉や方賓らとともに、漠北遠征における食糧輸送の不足を訴え、永楽帝の怒りを買い、投獄されるという苦境に立たされました。しかし、永楽帝が崩御し、洪熙帝が即位すると、呉中は釈放され、刑部尚書として再び起用されました。その後、工部尚書に転じ、太子少保の位も加えられ、政治的にも高い地位を確立しました。

宣徳元年（1426年）には、宣徳帝に従い漢王朱高煦の討伐に参加し、軍事面でも活躍を見せました。宣徳2年（1427年）には少保の位を加えられましたが、宣徳3年（1428年）には官の木材を使い宦官の楊慶の邸宅を建造したことが問題となり再び投獄されます。その後釈放されますが、少保の位を剥奪されました。宣徳4年（1429年）には漕運の監督に任命され、宣徳5年（1430年）には吏部を兼任するなど、様々な分野で活躍しました。宣徳10年（1435年）には再び少保の位を加えられています。

呉中の最大の功績は、やはり建築家としてのものです。正統6年（1441年）には、乾清宮、坤寧宮の二宮、奉天殿、華蓋殿、謹身殿の三殿の工事を完成させ、その功績により少師に進みました。これらの建築物は、明朝を象徴する重要な建造物であり、呉中の卓越した才能を今に伝えるものです。

正統7年（1442年）4月、呉中は官職を辞し、その2ヶ月後の6月に死去しました。その功績から茌平伯の爵位が追贈され、栄襄という諡号が贈られました。

呉中は、明代初期の政治と建築の両面で大きな足跡を残した人物であり、その生涯は激動の時代を生き抜いた官僚の典型と言えるでしょう。彼の設計した建築物は、明代の文化と技術の高さを象徴するものとして、現代においても重要な遺産となっています。

【参考文献】
『明史』巻151 列伝第39
寺田隆信『永楽帝』中央公論社〈中公文庫〉、1997年。ISBN 978-4062921480。

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