哀しい妖精

「哀しい妖精」（かなしいようせい）は、日本の歌手、南沙織（ナンサオリ）が1976年 9月1日に発表した通算20枚目のシングル楽曲です。発売元はCBS・ソニー（現：ソニー・ミュージックレーベルズ）。

楽曲解説

この楽曲は、アメリカのシンガーソングライターであり、「17才の頃」などのヒットで知られるジャニス・イアンが提供したメロディに、日本の作詞家である松本隆が日本語の歌詞をつけたものです。元々はジャニス・イアン自身の楽曲「I LOVE YOU BEST」として存在しており、この英語詞のオリジナルバージョンは、シングルの約3ヶ月後にあたる1976年12月21日に発売された南沙織の15枚目のアルバム『ジャニスへの手紙』に収録されています。南沙織自身がテレビ番組などでこの英語バージョンを披露したこともありました。

日本語詞の制作過程においては、南沙織本人の強い意向を受けて、歌詞の一部が変更され、現在広く知られる形になったとされています。作詞を担当した松本隆は、自身の詞作がボブ・ディランの楽曲『風に吹かれて』から影響を受けていることを認めています。しかし、その背景には、彼が以前手掛けた別のヒット曲「木綿のハンカチーフ」が他のアーティストの楽曲との類似を指摘され、いわゆる「パクリ」と揶揄されたことへの反発があったと語っています。松本氏は、この経験から「影響」と「パクリ」は明確に異なるものであり、自身の「哀しい妖精」の詞はあくまで「影響」であって断じて盗作ではない、という強い意識を持って制作に臨んだと述懐しています。

反響と評価

本楽曲は、シングル発売に先立つ1976年8月、フジテレビ系列の音楽番組『夜のヒットスタジオ』で初めて披露されました。歌唱後、司会者の芳村真理が南沙織を呼び止め、同じく司会の井上順とともに「いい曲ね」「シンシアにぴったり」と口々に絶賛するなど、番組内で大きな注目を集めました。この反響もあり、楽曲は広く受け入れられました。

南沙織自身も、特に思い入れの強い作品の一つとして「哀しい妖精」を挙げています。個人的なエピソードとして、ある時偶然子供と一緒にいる時にこの曲を耳にしたところ、子供の方から「これ、誰の歌？」と興味を示されたことがあったと明かしています。また、作詞家の松本隆も、南沙織が歌手活動からの引退を控えた時期に、自身が特に好きな持ち歌として5曲を挙げた中にこの「哀しい妖精」が含まれていたことを知り、作詞家として非常に嬉しく感じた、と語っています。これらのエピソードからも、楽曲が歌手本人や制作陣にとって特別な意味を持つ作品であったことがうかがえます。

「哀しい妖精」は、その年の年末に放送された『第27回NHK紅白歌合戦』でも披露されました。これは南沙織にとって通算6回目の紅白歌合戦出場となりました。この貴重な歌唱映像は、2006年6月14日に発売された南沙織のデビュー35周年記念CD-BOX『Cynthia Premium』に付属するDVDに収録されており、後世に伝えられています。

収録曲

シングルには以下の2曲が収録されています。

1. 哀しい妖精（3:43）
作詞：松本隆、作曲：ジャニス・イアン、編曲：萩田光雄
2. 空色のインクで（3:30）
作詞：中里綴、作曲：田山雅充、編曲：萩田光雄

主な収録作品（LP・CD）

シングルA面の「哀しい妖精」は、オリジナルアルバム『哀しい妖精』をはじめ、南沙織の代表曲として数多くのベストアルバムやコンピレーション盤に収録されています。特に『シンシアのハーモニー』、『南沙織ベスト Recall 〜28 SINGLES SAORI + 1〜』、『Cynthia Best 〜 Eternity』、『GOLDEN☆BEST 南沙織コンプリート・シングルコレクション』など、時代を越えて多数の企画盤に名を連ねています。また、オリジナルバージョンのみならず、ライブ音源などが『Good-by Cynthia』や『CYNTHIA ALIVE』といったライブアルバムにも収録されています。

シングルB面の「空色のインクで」もまた、オリジナルアルバム『哀しい妖精』や、複数のベスト盤、CD-BOXである『Cynthia Memories』、『CYNTHIA ANTHOLOGY』、『Cynthia Premium』などに収録されており、ファンの間で親しまれています。

哀しい妖精