哀帝 (漢)

哀帝（あいてい）：美少年を愛した悲劇の皇帝

哀帝（紀元前25年 - 前1年）は、前漢の第13代皇帝であり、元帝の孫にあたります。在位期間は短いながらも、政治的な混乱と、寵愛した美少年・董賢との関係で知られています。

生涯

定陶王時代

哀帝は、元帝の側室の孫にあたる定陶恭王・劉康の子として生まれました。祖母である傅氏の庇護のもと、文辞や法律を好んで学んだとされています。17歳で長安に入朝した際、成帝の質問に的確に答え、詩経の内容を暗唱し、意味を説明できたため、その才能を高く評価されました。

祖母の傅氏は、孫の劉欣を皇太子にするため、趙飛燕や王根に賄賂を贈り、後継者に指名するよう働きかけました。成帝に実子がいなかったこと、劉欣自身も優秀であったことから、彼は皇太子に立てられることになります。

皇帝即位

紀元前7年、成帝の崩御により、哀帝は19歳で皇帝に即位しました。即位後、父である定陶恭王・劉康を恭皇と追尊しました。

哀帝は即位当初、外戚の勢力が増大していた状況を打破しようと試みました。大臣を厳しく罰し、皇帝の威厳を示そうとしたとされています。また、音楽や女色には興味を示さず、弓射や角力（すもう）を好んで見学したと言われています。

尊号問題と外戚との対立

哀帝は、実母の丁姫と祖母の傅氏に尊号を贈ろうとしましたが、王莽らの反対に遭いました。これは、外戚である王氏の勢力を抑えようとする哀帝の意図の表れでした。しかし、傅氏はこれに激怒し、哀帝に尊号を贈るよう強く要求しました。

その後、哀帝は傅氏を皇后に立て、丁姫と傅氏に尊号を贈りました。これにより、傅氏の一族が台頭し、王氏との対立が激化しました。王莽は辞任を申し出ますが、哀帝は慰留し、王莽を政務に参加させることにしました。

治世と政策

哀帝は、貧富の格差を縮小するため、私田と奴婢の所有に制限を設ける「限田法」を制定しようとしましたが、反対に遭い、実施には至りませんでした。また、成帝期に儒家官僚主導で進められた制度改革を、秦以来の伝統的なものに戻そうと試みました。これは、王氏一族によって壟断された皇帝権の回復を意図するものでした。

男色と董賢の寵愛

哀帝は、郎（官僚の位）の董賢を寵愛し、側近に取り立てました。董賢は異例の出世を遂げ、哀帝と同乗し、寝起きを共にするほど寵愛されました。この寵愛ぶりは「断袖の故事」として知られています。

元号の改元と撤回

哀帝は、黄門待詔の夏賀良の進言を受け、元号を「太初元将」に改元しましたが、1か月ほどで元の「建平」に戻しました。夏賀良らは処刑され、解光と李尋は流刑となりました。

匈奴の入朝

哀帝の時代、匈奴の烏珠留若鞮単于が入朝を願い出ました。当初、哀帝はこれを嫌いましたが、揚雄の諫めを聞き入れ、単于の来朝を許可しました。

董賢への譲位を望む

哀帝は、董賢に譲位しようと企てましたが、王閎に諫められ、断念しました。

死去

紀元前1年、哀帝は25歳で崩御しました。嗣子がなく、王莽が政治の実権を掌握し、劉箕子が次の皇帝として即位しました。

評価

哀帝は、外戚の排除、皇帝権力の強化に努めましたが、董賢の無能により、政局は混乱を極めました。また、度重なる災害や異変により、社会不安が増大し、漢王朝の衰退を招いたと評価されています。

故事

男色を意味する「断袖」という語は、董賢と一緒に寝ていた哀帝が、董賢を起こさないようにするため衣の袖を切って起きた、という故事に由来します。

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