烏珠留若鞮単于

烏珠留若鞮単于（うしゅるにゃくたいぜんう）

烏珠留若鞮単于（? - 13年）は、中国の前漢時代末期から新時代にかけての匈奴の単于です。呼韓邪単于と第一閼氏の子で、車牙若鞮単于の弟にあたります。単于号は烏珠留若鞮、姓は攣鞮氏、名は嚢知牙斯（のうちがし）です。

父である呼韓邪単于の時代から前漢との和平関係が続いており、烏珠留若鞮単于もその政策を継承しました。しかし、前漢の実権を握った王莽からの圧力が次第に強まり、王莽が新を建国すると、臣従を求められるようになりました。これに対し、烏珠留若鞮単于は新から独立し、新の支配に対して抵抗を続けました。

生涯

単于即位まで

呼韓邪単于とその第一夫人（顓渠閼氏）の間に「嚢知牙斯」として生まれました。同母兄に且莫車（後の車牙若鞮単于）がいました。また、第二夫人（大閼氏）の子として、雕陶莫皋・且麋胥・咸・楽がおり、雕陶莫皋と且麋胥は且莫車より年長で、咸と楽は嚢知牙斯より年少でした。その他にも、呼韓邪単于と他の夫人との間に十数人の異母兄弟がいました。

前漢の建始2年（前31年）に呼韓邪単于が死去すると、後継者を巡って意見が分かれましたが、最終的に年長者から順に単于位を継承する規則が定められ、雕陶莫皋が復株累若鞮単于として即位しました。この時、嚢知牙斯は右賢王に任じられました。

その後、鴻嘉2年（前20年）に復株累若鞮単于が死去し、且麋胥が捜諧若鞮単于として即位、元延元年（前12年）には捜諧若鞮単于が死去し、兄の且莫車が車牙若鞮単于として即位すると、嚢知牙斯は左賢王に任じられました。

単于即位

綏和元年（前8年）に車牙若鞮単于が死去し、左賢王であった嚢知牙斯が烏珠留若鞮単于として即位しました。即位後、弟の楽を左賢王に、異母弟の輿を右賢王に任命し、子の烏鞮牙斯を漢に入侍させました。当時の漢の実権者であった王根が、匈奴の領土の一部を漢に割譲させようと画策しましたが、烏珠留若鞮単于は先祖代々の土地であるとしてこれを拒否しました。

建平2年（前5年）には、烏孫との間で紛争が起こり、漢が仲介に入る事態となりました。建平5年（前2年）には、病を理由に入朝を延期し、元寿2年（前1年）にようやく漢に入朝しました。この際、哀帝から手厚いもてなしを受けましたが、帰国後、王莽が実権を握ると、匈奴に対する規制が強化されていきました。

王莽からの規制と対立

王莽は、匈奴に雲という女性を入侍させ、手厚い贈り物を与えましたが、元始2年（2年）には、亡命者を受け入れたことを理由に、匈奴に4か条の取り決めを命じました。さらに、烏珠留若鞮単于の名を「知」と改めさせ、匈奴の文化にまで介入しようとしました。この措置は、匈奴と漢の対等な関係を破棄するものとして、匈奴側の反発を招きました。

王莽は、匈奴に手厚い贈り物をする一方で、単于に改名させ、「聖制」に従うことを請い願わせることで、自らの徳が四方に広がっていることを示そうとしました。しかし、この政策は匈奴の反発を招き、両者の関係は悪化の一途を辿りました。

始建国元年（9年）に王莽が新を建国すると、烏珠留若鞮単于は漢から与えられた印綬を新しい新の印綬へと取り換えさせられました。従来の印綬には「匈奴単于璽」と刻まれていましたが、新の印綬には「新匈奴単于章」と刻まれており、匈奴は漢から独立した王であることを否定され、新に服従する臣下と位置づけられました。

新との対立と交戦

王莽の度重なる干渉に対し、烏珠留若鞮単于はついに反旗を翻し、新との対立を深めました。烏珠留若鞮単于は、右大且渠の蒲呼盧訾らに兵を率いさせ、朔方の塞の近くに配置させました。また、車師後王の亡命を受け入れ、新への入寇を繰り返しました。

王莽は、烏珠留若鞮単于を討伐するため、大軍を派遣しましたが、匈奴の抵抗は激しく、新軍は苦戦を強いられました。始建国3年（11年）には、王莽が派遣した将軍たちが、辺境で略奪を行うなど、軍紀が乱れ、民衆は困窮しました。

始建国5年（13年）に烏珠留若鞮単于は死去しました。彼の死後、弟の咸が烏累若鞮単于として即位し、新との戦いを継続しました。烏珠留若鞮単于の時代から始まった新との対立は、その後も長く続くこととなりました。

子

右股奴王（烏鞮牙斯）
左於駼仇撣王（稽留昆）
右大且渠王（方）
左日逐王（都）
蘇屠胡本
醢落尸逐鞮単于（比）
丘浮尤鞮単于（莫）
伊伐於慮鞮単于（汗）

参考文献

東晋次『王莽―儒家の理想に憑かれた男』（白帝社アジア史選書）、白帝社 、2003.10
渡邉義浩『王莽―改革者の孤独』（あじあブックス）、大修館書店、2012.12

もう一度検索