喬惟忠

喬惟忠（きょう いちゅう）

喬惟忠（1192年 - 1246年）は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。字は孝先、涿州定興県（現在の河北省）の出身。

生涯

生い立ちと初期の活動

喬惟忠は代々農家の家に生まれましたが、義侠心に厚い人物として知られていました。金朝末期の混乱期に、同郷の若者の活躍に触発され、遊侠の徒となります。その後、モンゴル軍の侵攻を迎え、動乱の時代に身を投じることになります。

張柔との出会いとモンゴルへの帰順

同郷の張柔が太行山脈一帯に勢力を築くと、喬惟忠も一族を率いてその配下に入ります。当初は金朝の将軍である苗道潤に従っていましたが、苗道潤の死後、張柔はモンゴルに帰順。喬惟忠は当初これに抵抗しましたが、最終的には張柔の説得を受け入れ、モンゴル軍に降伏しました。

モンゴル帝国への貢献

モンゴル軍に降伏後、喬惟忠はその忠義と武勇を張柔に高く評価され、腹心として重用されます。南宋を奉じる彭義斌の軍勢を破るなど、数々の戦で功績を挙げました。武仙討伐では、敵の退路をわざと空けておき、逃げ場を失ったところを攻撃するという奇策を用いて大勝利を収めました。山東方面への進出にも従軍し、紅襖軍の夜襲を自ら撃退、李全率いる大軍を破るなど、その武勇はモンゴル軍の中でも際立っていました。

元帥府での活躍と金朝滅亡

張柔が満城に元帥府を開くと、喬惟忠は元帥都監、ついで左副元帥に任じられ、その軍事力を高く評価されます。第2代皇帝オゴデイの時代には、第二次金朝侵攻にも参加し、三峰山の戦いで金軍を破り、開封の包囲戦にも加わりました。金の哀宗が開封から逃れようとした際には、これを追撃し、黄龍岡で追い詰めるという大功を立てました。蔡州の戦いでは、モンゴル・南宋連合軍とともに金朝を滅亡させるという歴史的瞬間に立ち会いました。

行軍千戸への任命と晩年

金朝滅亡後、喬惟忠はその功績により、モンゴル帝国から正式に行軍千戸の地位を与えられます。これは漢人世侯が自称してきた称号とは異なり、モンゴル帝国が公認するものでした。その後も南宋侵攻に従事し、棗陽軍・光州・黄州の攻略に貢献しました。1242年頃から病に倒れ、1246年に55歳で亡くなりました。

人物像

「千戸喬公神道碑銘」によると、喬惟忠は美しい鬚髯を持ち、挙措は優雅で感情をあまり表に出さない人物であったとされています。冷静沈着で、常に的確な判断を下すことのできる、優れた武将であったと言えるでしょう。

家族

妻は広威将軍・潞州録事の毛伯朋の娘で、張柔の妻の姉にあたります。息子は5人おり、長男の張珪が千戸の地位を継ぎました。娘も5人おり、張柔との間には姻戚関係もあり、非常に親密な関係であったことが伺えます。

参考文献

井戸一公「元朝侍衛親軍の成立」『九州大学東洋史論集』第10巻
野沢佳美「張柔軍団の成立過程とその構成」『立正大学大学院年報』第3号
『新元史』巻145列伝42喬惟忠伝
『遺山先生文集』巻29千戸喬公神道碑銘

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