四分音符

四分音符は、西洋音楽において用いられる基本的な音符の一つです。その長さは、全音符のちょうど4分の1にあたります。楽曲のリズムや拍子を構成する上で中心的な役割を担います。相対的な演奏時間で見ると、二分音符の半分の長さ、そして八分音符の2倍の長さに相当します。これはテンポに関わらず一定です。

四分音符は、視覚的に識別しやすい独特の形状をしています。具体的には、中が塗りつぶされた楕円形の「符頭（ふとう）」と、符頭からまっすぐに伸びる「符幹（ふかん）」から構成されます。全音符や二分音符のように、符幹に旗や桁（げた）は付きません。符幹の向きには慣習的な規則があります。五線譜の中心線よりも下に書かれる音符の場合、符幹は通常上向きに書かれ、中心線上またはそれより上に書かれる場合は下向きになります。ただし、楽譜に複数の声部が書かれている場合など、特別な状況では符幹の向きが通常の規則から外れることがあります。また、符頭も符幹に対して逆向きになる場合があります。デジタルテキストでの表記には、Unicodeで定義された文字「♩」（U+2669）が使用されることがあります。

しばしば、特に初学者向けの説明や特定の拍子（例: 4分の4拍子）においては、四分音符が「1ビート」または「1拍」であると説明されます。しかし、これはあくまで一般的な傾向や特定の文脈での話であり、普遍的な規則ではありません。音楽における実際の1ビートの長さは、楽譜の冒頭に示される「拍子記号」によって明確に定義されます。拍子によっては、四分音符以外の音符（例えば8分音符）が1ビートの単位となることもあります。したがって、四分音符が常に1ビートであるという理解ではなく、拍子記号と合わせてリズム構造を捉えることが重要です。

四分音符と同様の長さを持つ「無音」の期間は、「四分休符（しぶんきゅうふ）」という記号で表されます。四分休符は、四分音符と厳密に同じ長さの休止を示します。現代の楽譜では、通常、稲妻に似た特徴的な記号が用いられます。古い記譜法や特定の版によっては、異なる形状の記号が使われることもあります。

四分音符の歴史は、中世末期からルネサンスにかけて発展した「定量記譜法（ていりょうきふほう）」に始まります。この記譜法における「semiminima（セミミニマ）」が、現代の四分音符の直接的な祖先です。semiminimaは、当時の基本単位であったミニム（二分音符に相当）の半分の長さを意味しました。英語名の一つ「crotchet（クロチェット）」は、初期の「黒記譜法」で音符に付いていた小さな鉤（フック）に由来し、古フランス語の「crochet」（小さなフック）が語源です。現代フランス語で「八分音符」を指す「croche」は、後の白記譜法で八分音符にフックが使われたことに由来しており、歴史的な変遷が見られます。英語の「quarter note（クォーター・ノート）」や、日本語の「四分音符」、ドイツ語の「Viertelnote（フィアテルノーテ）」など、「4分の1」を意味する名称は、全音符を基準とした相対的な長さを表しています。これは、ドイツ語のViertelnoteが多くの言語に翻訳借用されたためです。一方で、スペイン語などのロマンス諸語では、ラテン語で「黒」を意味する言葉（例：negra）から派生した名称が使われます。これは、定量白記譜法において、semiminimaが塗りつぶされた音符の中で最も長い音符であったという、その形状の特徴に由来しています。この塗りつぶされた符頭という特徴は、現代の四分音符にも受け継がれています。多様な名称は、記譜法の歴史的発展や、各言語圏における音符の捉え方の違いを示しています。

四分音符は、楽譜上で頻繁に登場し、楽曲のリズムと構造を理解する上で不可欠な要素です。その形状、長さの関係性、そして名称の多様な由来は、音楽記譜法の歴史と発展を物語ります。正確な音楽表現のために、その定義と役割を理解することは重要です。

もう一度検索