国府祭

相模国府祭（こうのまち／こくふさい）

国府祭は、神奈川県中郡大磯町国府本郷の神揃山（かみそりやま）と大矢場（現在の馬場公園）で毎年5月5日に執り行われる重要な祭礼です。「天下祭」や「端午祭」とも称され、平安時代に相模国の主要五社（一宮：寒川神社、二宮：川勾神社、三宮：比々多神社、四宮：前鳥神社、五宮：平塚八幡宮）を、国府に近い柳田大明神（後の総社六所神社）に合祀した故事に由来すると考えられています。

歴史と起源

この祭りは、相模国の国府が置かれた場所に伝わる、古代国府総社の祭りとして知られています。かつては旧暦の2月4日に行われていましたが、鎌倉時代の弘安5年（1282年）に現在の5月5日に改められました。古来「端午祭」とも呼ばれ、鎌倉時代の歴史書『吾妻鑑』にもその記述が見られることから、遅くとも11世紀には既に確立していた祭祀と考えられます。

祭りの起源については諸説あります。養老年間（717年-724年）に始まったという伝承が『新編相模国風土記稿』に記されていますが、詳細は明らかではありません。また、『官國幣社特殊神事調』では、天応元年（781年）に夷賊襲来や早良親王征討に際し、各国の大社に退散を祈願したところ速やかに凱旋したことが吉例となり、この祭りが始まったとする説も紹介されています。

祭事の構成と流れ

国府祭は、神揃山で行われる祭り（五社祭典など）と、大矢場で行われる国司祭（神対面神事など）の二部構成で行われます。

浜降り：祭りの前日である5月4日には、六所神社による「浜降り」神事が行われます。これは浜辺で波打ち際の砂をすくい、祭場や参道を清めるための重要な準備です。

五社神揃山御成：祭り当日、参加する一宮から五宮の各神社では朝に「発御祭」を執り行い、それぞれの神輿が神揃山を目指して出発します。神揃山に到着した五社の神輿は、定められた順序（一宮から五宮の順）で入山します。その後、国家安泰や五穀豊穣を祈願する「五社祭典」が厳かに執り行われます。

チマキ撒き：五社祭典に続き、三宮の比々多神社の神職が小餅を詰めた俵を撒く「チマキ撒き」が行われます。この小餅を食べると病気をしないと信じられており、多くの参拝者が集まります。

座問答：正午になると、祭りの中心となる神事「座問答」が始まります。これは忌竹で囲まれた神聖な空間で、一宮・寒川神社と二宮・川勾神社の神主が、上座を占めようとする意思を象徴的に表現するものです。両者が無言で虎の皮を祭壇に近づける動作を交互に三回ずつ行い、最後に三宮・比々多神社の神主が「決着は翌年に」と仲裁して神事が終わります。この象徴劇は1,000年以上続けられていると伝わります。この座問答は、かつて相模国が相武国と磯長国を統合して成立した際に、両国の有力神社である寒川神社と川勾神社のどちらを一宮とするかで起こった論争を再現したものとする説や、六所神社の女神に対する婿神の先陣争いを表すという解釈があります。

七度半の迎神の儀：座問答が終了すると、各社から選ばれた総社奉迎使が総社六所神社へ派遣されます。これは「七度半の使い」と呼ばれ、六所神社の神輿を大矢場へ迎え入れるための儀式です。六所神社の神輿が大矢場へ向かう途中の「見合いの松」で「宮合の儀」が行われ、神輿が広場へ入場します。

大矢場での神事：六所神社の神輿が到着すると、舟形の舞台で「鷺の舞」が奉納されます。これは天下泰平、五穀豊穣、災厄消除を祈願する古来の舞であり、六所神社の社伝によれば平安時代に国司や貴族をもてなすために舞われたものと伝えられています。鷺の舞の奉納中、神揃山から下山した一宮から五宮の神輿も大矢場に入場し、一堂に会します。

神々が一堂に会した後、七十五膳にも及ぶ山海の幸が献上され、「神対面神事」が執り行われます。これは、五社の宮司が自社の分霊である守公神を総社六所神社に奉納する儀式で、この守公神は一年間、相模国の守護神として六所神社に祀られます。続いて、在庁（現在の町の代表）や国司（現在の町長）による献上や巡拝、六所神社宮司による各社巡拝が行われます。

各社還御：一連の神事が終了すると、五社の神輿は神揃山への入山時とは逆の順序（五宮から順）で大矢場を退場します。最後に六所神社の神輿が退場し、国府祭は幕を閉じます。神輿が無事境内に戻った後に「還御祭」を行う神社もあります。

この祭りは、五社の男神が六所神社の女神（櫛稲田姫命とされる）と対面する神婚説話の演劇的な表現であり、その年の農耕の豊作を祈願する予祝祭としての性格を持つという説も有力です。かつて大矢場では農耕具市が立ち、農具を買うと豊作になると信じられていましたが、近年は一般的な露店が中心となっています。

国府祭は、相模国の悠久の歴史と文化を今に伝える重要な祭礼として、昭和53年（1978年）に神奈川県の無形民俗文化財に指定されています。

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