国民美術協会 (フランス)

国民美術協会（Société nationale des beaux-arts, SNBA）

国民美術協会（SNBA）は、一世紀半を超える長い歴史を持つフランスの権威ある美術団体です。その源流は、1648年に設立された王立絵画彫刻アカデミーの系譜に遡ることができ、1862年に設立されました。

設立と黎明期

1862年の設立当初は、作家のテオフィル・ゴーティエが理事長を務め、エメ・ミレーが副理事長に就任しました。理事には、画家のウジェーヌ・ドラクロワ、アルベール＝エルネスト・カリエ＝ベルーズ、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌといった錚々たる顔ぶれが名を連ねました。初期の展覧会には、レオン・ボナ、ジャン＝バティスト・カルポー、シャルル＝フランソワ・ドービニー、ギュスターヴ・ドレ、エドゥアール・マネなど、当時の著名な芸術家たちが作品を出品しています。特に、協会は1864年にドラクロワの没後間もなく、その248点に及ぶ油絵やリトグラフを集めた大規模な回顧展を開催し、高い評価を得ました。しかし、その後は展覧会活動がしばらく休止状態となります。

1889年の再興と「サロン」からの分離

活動が停滞していた国民美術協会は、1889年のパリ万国博覧会を機に、ジャン＝ルイ＝エルネスト・メッソニエ、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ、ジュール・ダルー、そして近代彫刻の巨匠オーギュスト・ロダンらによって再興されました。この再出発以降、協会はシャン・ド・マルス（かつての練兵場）を会場として、毎年欠かさず大規模な展覧会を開催するようになります。

この再興には、当時の美術界における重要な背景がありました。それは、フランス芸術家協会が主催する「サロン・ド・パリ」が、次第に旧態依然としたアカデミズムに陥り、新しい表現を求める若い芸術家たちにとって閉鎖的な場となっていたことです。リュシアン・シモンをはじめとする若手画家たちは、この状況に飽き足らず、ロダンやシャヴァンヌといった大家の支持を得て、より自由で革新的な展覧会を企画することを模索しました。国民美術協会は、まさにこうした「サロン・ド・パリ」からの分離運動の中で再建され、新しい芸術の潮流を受け入れる場として多くの美術批評家から好意的に迎えられました。

現在の活動と特色

国民美術協会は、フランスの五大美術団体の一つに数えられ、特にフランス具象派の伝統を重んじ、継承してきた団体です。また、フランス歴代大統領の後援を受ける唯一の美術団体としても知られており、その地位は揺るぎないものです。協会は1926年に「ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ賞」を創設し、優れた芸術家を顕彰してきました。受賞者には、グラン・パレやパリ市立近代美術館といったフランス国内の権威ある会場での展覧会開催の機会が与えられています。2007年には名誉会員の称号が創設され、モーリス・ボワテルに最初に授与されました。現在の会長はミッシェル・キング氏が務めています。協会の年間展覧会は、現在もルーブル美術館に隣接するカルーゼル・デュ・ルーブル催事場にて、毎年12月に開催されるのが恒例となっています。

日本人芸術家との深い繋がり

国民美術協会は、日本との関わりも非常に深い団体です。1893年には、日本近代洋画の父とされる黒田清輝が、日本人として初めて国民美術協会の展覧会に入選を果たしました。その後も、パリで活躍した藤田嗣治や、日本画家の横山大観といった日本を代表する芸術家たちが歴代会員に名を連ねています。

20世紀の終わりにかけても、荻須高徳をはじめとする多くの日本人画家が出展を続けていました。近年も、絵画、版画、彫刻、写真、デザイン、書道、染色など、多様な分野で活躍する日本人作家の出展や受賞が目覚ましいです。特に、画家である赤木曠児郎氏は、協会の名誉副会長を務めるなど、要職に就いています。2002年には、赤木氏が権威あるピュヴィ・ド・シャヴァンヌ賞を受賞したのをはじめ、近年の展覧会では多くの日本人作家が様々な賞を受賞しており、その活躍は国際的な注目を集めています。

150年を超える歴史の中で、国民美術協会はフランス美術界において重要な役割を果たし続けており、同時に世界各国の、特に日本の芸術家たちとの交流の場としても、その存在感を高めています。

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