国鉄ア3形蒸気機関車

国鉄ア3形蒸気機関車：知られざる小形機の軌跡

国鉄ア3形蒸気機関車は、その名の通り、かつて日本国有鉄道（国鉄）の前身である鉄道省に在籍した、小型のタンク式蒸気機関車です。この機関車は、もともと阿波電気軌道（後に阿波鉄道と改称）が、信濃鉄道から譲り受けたものでした。

誕生と阿波鉄道での活躍

1912年、ドイツのオーレンシュタイン・ウント・コッペル社で製造されたこの機関車は、出力40馬力クラス、車軸配置0-4-0(B)型の2気筒単式飽和式ウェルタンク機でした。阿波鉄道では、3形5号機として運用されました。同形機として7形6号機も存在しましたが、こちらは動輪直径の拡大などの改造により、後に別形式として扱われました。

国有化と形式の変遷

1933年7月、阿波鉄道が国有化されると、これらの機関車は鉄道省に引き継がれました。当初、70形、75形という形式が計画されましたが、その小型さから、阿波鉄道時代の形式に「ア」を付加したア3形、ア7形として、元の番号のまま使用されることになりました。これは、当時の私鉄買収機の形式付与方針が定まっていなかった時期の特殊な事例と言えるでしょう。

短命に終わった国鉄時代

国有化後、ア3形、ア7形ともに、あまり使用されることはありませんでした。ア3形は1936年、ア7形は1937年に、それぞれ廃車となり、その短い国鉄での活躍を終えました。

同形機の数々

ア3形は、旧設計40HPクラスB型タンクという標準的な設計の機関車で、日本には同形機が多数輸入されました。軌間1,067mmのものだけでなく、762mmのものや、従輪を1軸追加した0-4-2(B1)形のものも存在しました。以下に、軌間1,067mmの主な同形機を列挙します。

製造番号5291 - 伊勢鉄道→伊勢電気鉄道1→大日本土木工事
製造番号5292 - 伊勢鉄道→伊勢電気鉄道2→加悦鉄道3
製造番号5293 - 信濃鉄道1→阿波電気軌道→阿波鉄道5→鉄道省5（ア3形）
製造番号5294 - 信濃鉄道2→伊勢鉄道→伊勢電気鉄道3
製造番号5295 - 信濃鉄道3→阿波電気軌道→阿波鉄道6→鉄道省6（ア7形）
製造番号5296 - 鞍手軽便鉄道→筑豊鉄道II 1→川崎造船所13
製造番号5297 - 宮崎軽便鉄道→宮崎鉄道→宮崎交通1
製造番号5298 - 宮崎軽便鉄道→宮崎鉄道→宮崎交通3
製造番号5299 - 宮崎軽便鉄道→宮崎鉄道→宮崎交通2
製造番号5300 - 山東軽便鉄道1→宮崎鉄道5
製造番号5474 - 釧路築港事務所→輪西製鉄2→富士製鋼所2
製造番号5883 - 一畑軽便鉄道→一畑電気鉄道1
製造番号5884 - 一畑軽便鉄道→一畑電気鉄道2
製造番号5885 - 釧路築港事務所→有田鉄道1→東武鉄道1（入籍せず）
製造番号5886 - 八幡製鉄所60→91
製造番号5887 - 八幡製鉄所59→90
製造番号5888 - 八幡製鉄所58→不明→170→鹿島参宮鉄道10

伊勢鉄道が発注したものの、キャンセルされた車両が、様々な事業者に渡った経緯も特筆されます。

主要諸元

ア3形の主要な諸元は以下の通りです。

全長: 5,265mm
全高: 2,767mm
軌間: 1,067mm
車軸配置: 0-4-0(B)
動輪直径: 585mm
弁装置: マックス・オーレンシュタイン式
シリンダー: 185×300mm
ボイラー圧力: 12.0kg/cm2
火格子面積: 0.37m2
全伝熱面積: 13.3m2
煙管蒸発伝熱面積: 11.5m2
火室蒸発伝熱面積: 1.8m2
小煙管: 45mm×1,800mm×51本
機関車運転整備重量: 8.64t
機関車空車重量: 6.36t
機関車動輪上重量: 8.64t
機関車動輪軸重: 4.32t
水タンク容量: 1.0m3
燃料積載量: 0.13t
シリンダ引張力: 1,790kg
ブレーキ装置: 手ブレーキ

現在の姿

国鉄籍のア3形は現存していませんが、同形機が2両保存されています。1両は、宮崎交通で活躍した1号機で、宮崎市内の交通公園に保存されています。もう1両は、有田鉄道を経て東武鉄道に引き取られた車両で、現在は板橋区の城北交通公園にて「ベビーロコ」として展示されています。

まとめ

国鉄ア3形蒸気機関車は、その短い活躍期間にもかかわらず、日本の鉄道史における興味深い一例と言えるでしょう。同形機も含め、その足跡を辿ることは、日本の鉄道技術史を理解する上で、貴重な手がかりとなります。

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