国鉄1690形蒸気機関車

1690形蒸気機関車

1690形は、かつて日本国有鉄道の前身である鉄道省に在籍したタンク式蒸気機関車です。この機関車は、その誕生から様々な変遷を経て、日本の鉄道史にその名を刻んでいます。

概要

1690形は、元々太田鉄道（後の水戸鉄道（2代））が1896年（明治29年）にアメリカのピッツバーグ・ロコモティブ・アンド・カー・ワークスで2両製造した、車軸配置0-6-0(C)のサイドタンク式蒸気機関車です。製造番号は1639と1640で、太田鉄道ではA1形（1, 2）と称していました。この機関車は、2気筒単式で飽和式の構造を持ち、25t級の機体でした。

特徴として、同じピッツバーグ製の鉄道院1350形と固定軸距以外はほぼ同じ寸法で、形態的にも似通っていました。動輪にはピッツバーグ製の特徴である補強用の水かきが付けられており、重厚な印象を与えていました。太田鉄道での活躍後、1901年（明治34年）の営業譲渡を経て、1927年（昭和2年）に水戸鉄道が国有化された際に鉄道省籍に編入され、1690形（1690, 1691）と改番されました。

しかし、実際には現車の改番は行われず、私鉄時代の番号のまま使用されました。1929年（昭和4年）には、2両とも五戸電気鉄道（後の南部鉄道）に譲渡され、同社の1, 2となりました。このうち2は1940年（昭和15年）に東北本線岡本駅から分岐する高崎板紙の専用鉄道へ譲渡され、1955年（昭和30年）ごろに廃車されました。

もう一方の1は、1941年（昭和16年）にC25形（C251）に改称された後、1947年（昭和22年）10月に東野鉄道に譲渡されました。東野鉄道でも、そのままの番号で使用されましたが、予備車的な扱いが多かったとされています。この機関車は1956年（昭和31年）に除籍されました。一説には富士重工業に譲渡されたとも言われていますが、その詳細は明らかになっていません。

主要諸元

全長: 8,442mm
全高: 3,400mm
全幅: 2,311mm（国鉄発表の数値であるが、キャブ幅は2,210mmであり、2,390mm程度にはなる筈）
軌間: 1,067mm
車軸配置: 0-6-0(C)
動輪直径: 1,092mm
弁装置: スチーブンソン式アメリカ型
シリンダー（直径×行程）: 330mm×508mm
ボイラー圧力: 9.8kg/cm2
火格子面積: 0.91m2
全伝熱面積: 51.6m2
煙管蒸発伝熱面積: 46.6m2
火室蒸発伝熱面積: 5.0m2
小煙管（直径×長さ×数）: 50.8mm×2,978mm×96本
機関車運転整備重量: 25.40t
機関車空車重量: 19.21t
機関車動輪上重量（運転整備時）: 25.40t
機関車動輪軸重（各軸均等）: 8.47t
水タンク容量: 2.73m3
燃料積載量: 0.86t
シリンダ引張力（0.85P）: 4,220kg
ブレーキ装置: 手ブレーキ、蒸気ブレーキ

まとめ

1690形蒸気機関車は、その生涯の中で複数の鉄道会社を渡り歩き、それぞれの場所で重要な役割を果たしました。その姿は、日本の鉄道史における一時代の象徴であり、技術的な特徴と歴史的な背景の両面から、鉄道ファンや研究者にとって興味深い存在です。

参考文献

臼井茂信「国鉄蒸気機関車小史」1956年 鉄道図書刊行会
臼井茂信「日本蒸気機関車形式図集成 1」1968年 誠文堂新光社
臼井茂信「機関車の系譜図 2」1973年 交友社
金田茂裕「形式別 国鉄の蒸気機関車 II」1984年 エリエイ出版部/プレス・アイゼンバーン
国立アメリカ歴史博物館所蔵組立図
高井薫平「RM LIBRARY 13 東野物語」2000年 ネコ・パブリッシング

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