土 (食材)

土壌の食用に関する考察

古来より、世界各地の人々は土壌を摂取してきた歴史があります。現代の食文化において土は食品とはみなされませんが、一部地域では伝統的に土壌が食されてきました。その目的は、消化促進、滋養強壮、解毒など多岐に渡ります。本稿では、土壌の食用に関する歴史、栄養価、健康への影響、動物の土壌食性について詳細に解説します。

土壌の栄養価

土壌には、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、鉄分などのミネラルが含まれています。これらのミネラルは、人体にとって必須栄養素であり、健康維持に重要な役割を果たします。しかしながら、土壌に含まれるミネラルの量や種類は、土壌の種類や場所によって大きく異なります。また、土壌中には有害物質が含まれている可能性もあるため、食用とする際には十分な注意が必要です。

土食文化

土壌を食品として利用する文化は、世界中に広く分布しています。例えば、アメリカ合衆国南部では、黒人奴隷によって持ち込まれた土食文化が根付いており、調理された土壌を一般の商店で購入することができます。また、ネイティブ・アメリカンは、土壌を「癒しの土」として精神的な安らぎを得るために摂取してきた歴史があります。さらに、ベトナムでは土壌を用いた網焼き料理が、ハイチでは土壌を原料としたビスケットが、それぞれ伝統料理として親しまれています。フランス料理においても、土壌を使ったスープが存在するなど、その利用方法は多様です。

樺太のアイヌ民族も土壌を調理に使っていました。彼らは珪藻土を水に溶いて煮立て、植物の葉柄や茎、鱗茎などを加えて食していました。これは、単なる食糧確保だけでなく、伝統的な食文化の一部として受け継がれてきたものです。

18世紀後期のドイツの博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトは、オリノコ川沿いのオトマコ族が土壌を食べる様子を観察しています。彼らは灰黄色の細かい土壌を団子状にして保存し、そのまま食べたり、料理に溶かして使ったりしていました。フンボルトは、洪水期に魚が獲れないため、土壌を食べて飢えをしのいでいると推測しました。

飢饉や食糧難の時代には、珪藻土やベントナイトが食品の増量材として使用された例もあります。例えば、熊本城の土壁には、籠城戦に備えて珪藻土が用いられ、保存食の繋ぎとしてカンピョウや芋がらなどが混ぜ込まれていました。

薬としての利用

特定の種類の粘土は、薬効を持つとして利用されてきました。ベントナイトは下剤として、あるいは食品の腹持ちを良くする目的で使用されます。カオリナイトは賦形剤や止瀉薬として、アタパルジャイトも止瀉薬の有効成分として利用されています。

中国の伝統医学書『本草綱目』には、土壌の薬効に関する記述があります。例えば、「伏龍肝」という漢方薬は、嘔吐、下血、止血に効果があるとされています。

ギリシャのリムノス島の土壌は、赤痢や解毒剤として医療用に用いられてきました。1848年の薬局方にも記載されており、19世紀まで使用されていたという記録もあります。古代ローマ時代には、パンに酸化マグネシウムや炭酸塩が混ぜられていたという告発もありました。19世紀のイギリスでは、パンに石灰やミョウバンが混ぜられていたことが問題となり、食の安全に関する議論が活発化しました。

西アフリカでは、つわりの軽減に粘土が使用されてきましたが、鉛やヒ素を含む粘土もあるため、注意が必要です。近年では、「飲むクレイ」と呼ばれる粘土を含む飲料やサプリメントが流通していますが、中には有害物質を含む製品もあるため、摂取には注意が必要です。

アルメニア粘土は、赤痢や下痢、出血の薬として、また歯磨き粉や顔料としても使用されてきました。

土食症

土を食べる行為は、土食症（geophagia）と呼ばれ、異食症の一種とされています。古代ギリシャの医者ヒポクラテスやケルススも、土食症について記述しており、貧血との関連性が指摘されていました。現代医学においても、土食症の患者には貧血などの微量栄養素の欠乏症が見られることが報告されています。妊娠中の女性が土を食べる事例は日本でも古くから知られており、亜鉛や鉄分の不足が原因の一つであると考えられています。

動物の土壌 食性

動物も土壌を摂取する習性があります。ミミズは土壌中の微生物などを摂取し、鳥類や哺乳類では、オウム、牛、コウモリ、ネズミ、ゾウなどが土壌を食べる習性があります。その理由は、ミネラル補給、毒物吸着、胃腸障害の改善などと考えられていますが、チンパンジーの場合、土壌中のカオリナイトと特定の植物が抗マラリア原虫物質として働く可能性も示唆されています。一方、カオリナイトには下痢止め効果もあるため、チンパンジーは胃腸障害の際に蟻塚を食べることもあるようです。

まとめ

本稿では、土壌の食用に関する様々な側面を解説しました。土壌の摂取は、歴史的、文化的な背景を持つとともに、健康、薬効との関連性も深いテーマです。今後、土壌の成分分析や、土食習慣を持つ人々の健康状態に関する研究がさらに進展することで、土壌の食用に関する理解が深まることが期待されます。ただし、土壌には有害物質が含まれている可能性があるため、安易な摂取は避けるべきです。

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