圧縮アーティファクト

圧縮アーティファクト：メディアデータの歪みとその原因

デジタルメディアの圧縮において、不可逆圧縮はファイルサイズを小さくする一方で、データの損失を伴います。このデータ損失が原因で生じるのが、圧縮アーティファクトです。画像、音声、動画など様々なメディアで発生し、画質や音質の劣化、歪みとして認識されます。

非可逆圧縮とデータの損失

非可逆圧縮は、データの一部を捨てることでファイルサイズを削減します。元のデータに戻すことができないため、必ずしも元のデータと同じ品質で復元されるとは限りません。圧縮アルゴリズムが、人間の知覚にとって重要でない歪みと、不快な歪みを区別できない場合、アーティファクトが目立つようになります。

様々なメディアにおける圧縮アーティファクト

圧縮アーティファクトは、JPEG、MP3、MPEGといった一般的なファイル形式で広く発生します。DVDやコンパクトディスクの代替品であるミニディスクでも見られます。これに対して、非圧縮のWAVファイルや可逆圧縮のPNG、FLACファイルでは、アーティファクトは発生しません。

画像

JPEG画像圧縮では、ブロックベースの符号化が用いられるため、特有のアーティファクトが生じます。代表的な例として、以下のものがあります。

リンギング (ringing): 輪郭がぼやけ、ハローのような輪が出来る現象。
バンディング (banding): 色のグラデーションが階段状になる現象。
エイリアシング: 曲線の輪郭が階段状のノイズになる現象。
ブロックノイズ (blockiness): 画像がブロック状に分割されたように見える現象。マクロブロック、キルティング、チェッカーボードとも呼ばれます。

ブロックノイズは、低ビットレートで顕著になります。変換されたピクセルブロックの係数が粗く量子化されるため、ブロック境界に不連続性が生じます。平坦な領域で特に目立ちます。

動画

MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4といった動画圧縮では、動き予測が使用されます。そのため、圧縮アーティファクトが複数のフレームに渡って伝播し、「汚れ」のように見える場合があります。

データエラーもアーティファクトの原因となります。伝送エラーなどが発生すると、大きな量子化エラーや画像の分割などが起こる可能性があります。また、動き補償によるブロックノイズや、「モスキートノイズ」と呼ばれる、輪郭周辺の点滅するぼやけも発生します。

音声

非可逆音声圧縮では、人間の聴覚特性を利用してデータの削減が行われます。しかし、圧縮率が高すぎると、リンギング、プリエコー、バーディーアーティファクト、ドロップアウト、ガタガタした音、メタルリンギング、水中感、ヒスノイズ、粒状感といったアーティファクトが発生することがあります。特に、ランダムな音である拍手の音は、圧縮アーティファクトが顕著に現れやすいです。

圧縮アーティファクトの低減

画像や動画の圧縮アーティファクトを低減するために、様々な後処理技術が開発されています。デブロッキングフィルタはブロックノイズを低減する効果があり、多くの写真編集ソフトやコンシューマ機器に搭載されています。動画圧縮においては、ループ内デブロッキングフィルタが、エンコーダーとデコーダーを統合することで、効率的なアーティファクト低減を実現します。

芸術への応用

圧縮アーティファクトは、グリッチアートやデータモッシュといった芸術表現にも用いられます。JPEG画像のアーティファクトを意図的に使用した作品や、複数の動画を組み合わせ、中間フレームを補間することでアーティファクトを生み出すデータモッシュといった手法があります。

まとめ

圧縮アーティファクトは、非可逆圧縮の避けられない結果ですが、その特性を理解することで、発生を最小限に抑えたり、あるいは芸術表現に活用したりすることが可能です。今後、より高度な圧縮技術や後処理技術の発展によって、アーティファクトの問題はさらに軽減されていくと期待されます。

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