地域圏急行輸送

フランスの地域圏急行輸送（TER）について

地域圏急行輸送（Transport express régional）、略称TERは、フランス国鉄（SNCF）がフランスの各地域圏で運営する鉄道およびバスによる旅客輸送サービスです。TERは、地域圏内の移動を担う公共交通機関として、地域の実情に合わせた運行が行われています。列車の種類としては、追加料金不要の地域内列車全般を指し、日本のJRにおける普通列車（快速列車を含む）に相当します。

TERの運営体制

フランス本土では、イル＝ド＝フランスを除く20の地域圏でTERが運営されています。各TERは地域圏名をつけて呼ばれ、例えばTERアルザス、TERアキテーヌなどがあります。イル＝ド＝フランス地域圏では、フランス国鉄のパリ近郊部門であるTransilienが地域圏内の輸送を担っています。コルシカ島では、コルシカ鉄道がTERとは異なる制度で運営されていますが、TERの一種とみなされることもあります。

TERの運営は、フランス国鉄の各地域支社が担当し、地域圏政府からの補助金によって支えられています。この点が、フランス国鉄が直接運営するTGVやコライユなどの列車とは異なります。しかし、旅客営業上はフランス国鉄の普通列車として扱われ、乗車券は共通化されています。そのため、同じ区間にコライユとTERが運行している場合、列車指定のない乗車券であればどちらの列車にも乗車できます。ユーレイルパスなどの鉄道パスも利用可能です。

TERの歴史

第二次世界大戦後、モータリゼーションの進展により、フランスでは地方のローカル線が廃止され、バスに転換される動きが加速しました。これに対し、地方自治体はローカル線の廃止が地方経済の衰退につながるとの危機感を抱き、フランス国鉄と協力して輸送サービスの維持に努めました。1970年には、モゼル県とムルト＝エ＝[[モゼル県]]がナンシー-メス-ティオンヴィル間の輸送に関して国鉄と協定を結んだ例があります。

地域圏制度の発足に伴い、地域圏が地方交通政策を司るようになると、1980年代にはほぼすべての地域圏が地方公共輸送計画を策定し、国鉄と地方交通に関する協定を締結しました。1984年には国鉄の地方輸送部門が地域圏別に分割され、TERが発足しました。しかし、この時点では地方交通に関する補助金は国庫から支出されており、地域圏の権限は限定的なものでした。

1997年には、アルザスなど6つの地域圏で、国から地域圏への地方交通に関する権限委譲（地域圏化）が試験的に実施されました。これにより、国が国鉄に直接交付していた補助金は一旦地域圏に交付されるようになり、地域圏は必要に応じて独自の財源からの補助金を加えて国鉄に交付するようになりました。地域圏は、輸送計画の策定だけでなく、運賃やサービスの決定、車両の調達、交通弱者に対する運賃補助など、より積極的にTERに関与するようになりました。

1999年には、リムーザン地域圏でも同様の権限委譲が行われ、2002年にはイル＝ド＝フランスを除く全地域圏で地域圏化が完了しました。

地域圏の支出例

2007年のピカルディー地域圏の予算における地方交通に関する支出を例に挙げると、総額は2億78百万ユーロで、地域圏予算の27%に相当します。このうち約8割が公共交通機関に使われています。

内訳は以下の通りです。

車両の購入：62百万ユーロ
TERの運営：132百万ユーロ
運賃補助：15百万ユーロ
駅整備：17百万ユーロ
道路整備：35百万ユーロ
水運・航空インフラ整備：13百万ユーロ

TERの列車種別

「TER」は、TERの制度で運行される列車を指す列車種別としても用いられます。TERの列車には、各駅停車から主要駅のみに停車する優等列車まで様々な種類があります。また、TERの路線は必ずしも地域圏内にとどまらず、隣接する地域圏や近隣国の主要都市まで直通する列車も存在します。

列車種別としてのTERは、train express régional（地域圏急行列車）の略とされることもありますが、地域圏によっては「train TER」（TERの列車）のように呼ばれることもあります。

TERGV

TERGVは、TGV用の高速新線（LGV）を経由して運行されるTERの列車です。例えば、TERノール＝パ・ド・カレーには、LGV北線を経由してリールとダンケルクおよびブローニュ＝シュル＝メールを結ぶTERGVがあります。車両はTGVのものが使用されますが、制度上はTERとして扱われます。他の地域圏でもTERGVの計画があります。

著名なTERの列車

以下は、特徴的なTERの列車です。

Aqualys: TERサントルのパリ - オルレアン - トゥール間の列車
icter (Intercité TER): TERプロヴァンス＝アルプ＝コート・ダジュールのマルセイユ - ニース - ヴェンティミリア（イタリア）間の列車
Interloire: TERサントルおよびTERペイ・ド・ラ・ロワールによるオルレアン - トゥール - アンジェ - ナント間の列車で、ロワール川沿いの主要都市を結ぶ
TER 200: TERアルザスによるストラスブール - ミュールーズ - バーゼル（スイス）間の列車で、コライユ客車を使用し、最高速度200km/hで運転される

TERの車両

TERに関する権限が地域圏に移譲された後、多くのTERで地域圏の補助金により新型車両が導入されました。これらの車両は、単行から4両編成程度の短編成の電車または気動車が多く、アルストムやボンバルディアなどが製造しています。バリアフリーに配慮し、プラットホームとの段差を小さくした低床構造を採用した車両も存在します。

一方で、TER制度の発足以前に製造された旧式の客車や電車、気動車も一部路線で使われています。幹線系統では、長距離列車用に製造されたコライユ客車やUSI客車も使用されます。

AGC (Autorail à grande capacité)

AGCは、ボンバルディアが2004年からTER向けに製造している大容量の動力分散方式車両です。動力方式の違いにより、以下の4種類があります。

X 76500型 (XGC): ディーゼル・エレクトリック方式の気動車
Z 27500型 (ZGC): 直流1500Vと交流25kV、50Hzに対応した交直流電車
B 81500型 (BGC): デュアルモード車で、架線からの直流1500Vとディーゼルエンジンによる発電の双方が利用可能
B 82500型 (BiBi): B 81500型に加え、交流25kV、50Hzの集電にも対応した車両

AGCは、連接構造の3-4両編成で、動力の違いを除けば車体はほぼ共通です。最高速度は160km/h。異なる種類のAGCを連結することも可能です。

その他のTER向け車両

気動車

X 72500型 (X TER): 1997年から2002年までアルストムで製造されていた液体式気動車
X 73500型 (A TER): 1999年から2004年までアルストムなどが製造していた単行気動車。ドイツ[[鉄道]]と共同開発
X 73900型 (A TER): 2001年から2004年までアルストムなどで製造された単行気動車で、X 73500の改良型

電車

Z 21500型 (Z TER): X 72500の車体を元に設計された交直流電車
Z 23500型 (TER 2N): 2階建ての交直流電車
Z 24500型 (TER 2N NG): Z 23500型を改良した2階建て交直流電車
* Z 26500型 (TER 2N NG): 4両または5両編成の2階建て交直流電車。上記のTER 2Nシリーズは相互に連結して運用可能

バス

TERはバス（autocar）による運行も行っています。これは、鉄道が廃止・休止された区間の代替や、ラッシュ時のみ列車を運転し、閑散時間帯はバス便とする場合、各駅停車便をバス便とする場合などがあります。これらのバス便も、列車と同じ扱いであるため、鉄道線の運賃が適用され、ユーレイルパスなどの鉄道パスも利用可能です。

まとめ

フランスの地域圏急行輸送（TER）は、地域圏ごとのニーズに応じた柔軟な運行形態が特徴で、地域の足として重要な役割を果たしています。新型車両の導入やバリアフリー化が進められており、より快適な移動を提供できるよう努められています。

もう一度検索