地獄谷野猿公苑

地獄谷野猿公苑は、長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉に位置する、野生のニホンザルの観察を目的とした公園です。特に冬季にサルが温泉に浸かる姿は、世界的に有名で、多くの観光客が訪れます。英語圏では「Snow Monkey Mountain」とも呼ばれています。

地理と歴史

1964年に開苑したこの公苑は、「猿と人間の共生を観光客に見せる」ことを目指し、野生のニホンザルの生態を間近で観察できる場所として国際的に知られています。志賀高原を源とする横湯川の渓谷に位置し、標高850m、冬には1mを超える積雪が見られます。厳冬期には最低気温が-10℃を下回る厳しい環境です。公苑の手前には、100℃近い源泉を吹き上げる渋の地獄谷噴泉があります。

冬場に温泉に入るニホンザルの姿は「スノーモンキー」として知られ、国内外のメディアで紹介され、タイム誌にも掲載されるなど、国際的な観光地としての地位を確立しています。年間約10万人が訪れる公苑では、夏冬問わず野生のニホンザルを観察できます。

1998年の長野オリンピックでは、スノーボードのハーフパイプ競技会場が近くにあったため、各国のメディアで公苑が紹介され、国際的な知名度がさらに高まりました。観光客の約2割が海外からで、特に冬季には3-4割が外国人観光客で、オーストラリアからのスキー客が多いとされています。2010年には、冬季の平日の平均来場者の半数以上が外国人観光客で、多い日には7割を超えることもありました。

2011年の東日本大震災時には観光客が激減しましたが、その後は震災前の水準まで回復しています。近年では、オーストラリア、台湾、欧米からの観光客に加え、シンガポールやタイなど東南アジアからの旅行客も増加しています。海外では「スノーモンキー」は「日本でぜひ見たいもの」の上位にランクインしており、日本テレビの番組では「外国人が感動した日本の観光地」で3位に選ばれています。公苑は「野生の動物をこれだけ近くで安心して見られる所は世界でもあまりない」と紹介されています。

開苑まで

戦後の林業により、サルの食料となる木々が伐採され、サルは生息地を失い、地獄谷付近に下りてくるようになりました。しかし、下りてきたサルの数が多く食料が不足し、下流のリンゴ畑が被害を受けるようになりました。地元住民は林野庁にサルの駆除を申請し、駆除許可が出ましたが、初代苑長である原荘悟は、サルとの共生を目指し、リンゴ畑から離れた場所でサルを餌付けし、サルの駆除に反対しました。3年をかけて警戒心の強いサルを手なずけ、1964年に地獄谷野猿公苑が開苑しました。

露天風呂

公苑の露天風呂は、縦4m、横10mの大きさです。1964年の開苑当時、好奇心旺盛な子ザルが付近の旅館の露天風呂に入浴したのをきっかけに、大人ザルも真似をするようになり、その後、衛生面からサル専用の露天風呂が整備されました。冬季には50頭から60頭ほどのサルが入浴します。サルが温泉に入るのは、寒さをしのぐためで、体を清潔にするためではないと考えられています。温泉の温度は42℃程度で、人間が心地よく感じる温度とほぼ同じです。入浴するのはメスと子ザルがほとんどで、オスザルは群れを守るために警戒しているため、入浴することは少ないとされています。公苑のサルは、人間が見ていても気にせず入浴します。また、サルは汗腺が少なく、寒冷地に適応しているため、湯冷めをしないと言われています。サルの体毛は水をはじくため、風呂上がりに水をはじけばすぐに乾く仕組みになっています。

観察

公苑のサルは、常に公苑にいるわけではなく、食料を探しに周囲の山に行くこともあります。そのため、サルが見当たらないからといって、サボっているわけではないと理解してほしいと呼びかけられています。

禁止事項

観光客による餌付けは厳禁です。公苑のサルは半野生状態であるため、「サルを触らない」「サルから離れて観察する」「サルの目をじっと見つめない」「サルになれなれしくしない」「サルに話しかけない」「自撮り棒を使わない」などの禁止事項が設けられています。これらのルールを守れば、サルが観光客を襲うことはないとされています。また、公苑は常に「人への監視」を徹底しています。

餌付け

地獄谷野猿公苑では、観光客による餌付けは禁止されており、職員のみが不定期に餌を与えています。これは、サルを安定して観察できる状態に保つための手段であり、餌付けショーではないという考えに基づいています。餌付けの時間は公表されていません。与える餌は、籾殻付きの大麦、小粒の生大豆、リンゴなどです。栄養価が高すぎる餌を与えすぎると、サルが肥満になり自然の状態を崩してしまうため、職員は餌にも気を配っています。

冬の猿

写真家の福田幸弘が撮影した公苑のサルの写真が、BBCの「Wild life photography 2005 動物部門入賞」を受賞し、翌年には公苑職員の萩原敏夫が撮影した写真が「米国ネイチャーズ・ベスト国際写真コンクール」で受賞するなど、冬のサルの写真は高い評価を受けています。志賀高原ロマン美術館では、「スノー・モンキー」の写真展や写真教室が開催され、写真コンテストも実施されています。コンテストのテーマは「地獄谷野猿公苑のニホンザル」であり、冬のサルだけでなく夏のサルも応募されます。

「ボスザル」

地獄谷野猿公苑では、群れの第一位のサルに敬意を込めて代々「龍王」という名前が付けられています。過去には、ナンダ、トム、トリカブト、トラシチ、トラヨ、トケイ89などが龍王を務めました。ボスザルの交代は、ある日突然、第一位のサルが群れからいなくなることで、群れに残ったオスたちの順位が繰り上がることによって行われるとされています。若い個体が年老いたボスを追い出すという「ボス争い」は実際にはないと考えられています。

20世紀後半には、ニホンザルの研究が進み、「ボスザル」という概念は否定されつつありますが、公苑では、名称よりも実態を広めたいという理由から、現在も「ボスザル」という言葉を使っています。

群れの頭数

2012年末時点で、群れの頭数は160頭程度で、そのうち50頭から60頭ほどが温泉に入浴します。1990年代には個体数管理のため避妊処置が導入され、出産率の低下に効果を上げています。

沿革

1962年頃 - 長野電鉄山岳部員による餌付けが成功
1964年 6月3日 - 会社設立、開苑
1979年9月 - 「四季花苑・上林温泉ベゴニアガーデン」開苑

営業

ながでんグループ傘下の株式会社地獄谷野猿公苑が運営しています。

開苑時間

夏季 - 8:30頃から17:00頃
冬季 - 9:00頃から16:00頃

入苑料金

大人 - 800円
年間パス - 5,000円
小児 - 400円
年間パス - 2,500円

アクセス

長野電鉄長野線湯田中駅からタクシーで約10分。冬季は道路が閉鎖されるため、上林温泉から山道を徒歩30分程度。冬季土休と年末年始には予約制のバス（スノーモンキーホリデー観にバス）が運行し、地獄谷バス停から徒歩10分です。また、野猿公苑入苑セット往復乗車券も販売されています。

影響

地獄谷野猿公苑の海外からの観光客の増加により、2009年に湯田中温泉の「島屋旅館」が「外国人観光客に支持される日本の宿」（トリップアドバイザー調べ）で2位に選ばれました。

脚注

地獄谷野猿公苑公式サイト

地獄谷野猿公苑