坂東正男

坂東正男（1916年3月1日 - 2007年6月12日）は、日本の写真家であり、特に映画製作におけるスチルカメラマンとして、戦後の日本映画史に重要な足跡を残した人物です。

1916年（大正5年）3月1日、北海道に生まれた坂東は、写真家を志し単身上京。多くの優れた写真家を輩出した名門校として知られるオリエンタル写真学校で専門的な技術を学びました。卒業後、大都映画株式会社に入社。同社は1942年（昭和17年）、新興キネマや日活製作部との統合により、大日本映画製作株式会社（後に大映株式会社となる）の一部となりました。

彼のキャリアにおける重要な転機は、大映在籍時の1952年（昭和27年）に訪れます。成瀬巳喜男監督、高峰秀子主演の映画『稲妻』で、スチル撮影チームのリーダーに抜擢され、その手腕が高く評価されました。この活躍がきっかけとなり、彼は日活へ移籍することになります。

日活に活動の場を移した坂東は、1950年代から1960年代にかけての、いわゆる日活黄金時代を支えた代表的なスチルマンの一人として活躍しました。当時の日活には、後に監督として名を馳せる斎藤耕一など、個性豊かなスチルマンがいましたが、坂東はその中でも「監督格」と評されるほど、信頼と実力を兼ね備えた存在でした。彼は特に写真修整技術に長けており、その卓越した腕前から、日活社内では「修整の神様」という異名で呼ばれていました。

多くの同業者が脚本家や助監督、あるいは監督へと転身していく中で、坂東は生涯スチルマンという道を選びました。その姿勢は、自身の職域に深い愛情と誇りを持つ職人肌の人物であったことを物語っています。俳優やスタッフからは、親しみを込めて「バンちゃん」と呼ばれ、その人柄もまた慕われたようです。

日活では、当時の看板スターたちの作品を数多く担当しました。石原裕次郎主演の『俺は待ってるぜ』、小林旭主演の「渡り鳥」シリーズや「あいつ」シリーズ、宍戸錠主演の『殺しの烙印』（鈴木清順監督）、吉永小百合主演の『青春の風』など、ヒット作や話題作のスチール写真を多数手がけ、作品のイメージ作りや宣伝に貢献しました。特に小林旭、宍戸錠主演作が多く、中平康、西村昭五郎、鈴木清順といった個性派監督の作品でその才能を発揮しました。

映画関連の仕事に加え、『キネマ旬報』や『サンデー毎日』などの写真コンテストでも多数受賞するなど、その写真家としての実力は広く認められていました。

しかし、1970年（昭和45年）、日活の経営悪化に伴う情勢の変化と共に、坂東は惜しまれつつ映画界を引退しました。

引退から長い年月を経た2007年（平成19年）6月12日、満91歳でその生涯を閉じました。

なお、一部のデータベース（例：キネマ旬報映画データベース）では、彼の職能が「スクリプター」や「脚本家」と誤って記載されていることがありますが、これは正確ではなく、彼は一貫してスチルカメラマン、写真家として活動した人物です。

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