塙忠宝

塙忠宝の生涯と業績

塙忠宝（はなわ ただとみ）は、1808年1月1日に生まれ、1863年2月10日に亡くなった江戸時代末期の国学者です。彼は塙保己一の四男であり、母は岡田イヨです。通称は次郎で、忠宝の名は師である林述斎が授けたものとされています。

国学者としての業績

忠宝は、江戸時代に教育や歴史に大きな影響を与えた人物で、特に国学の発展に寄与しました。彼は『史料』や『武家名目抄』、『続群書類従』などの編纂に携わり、『南朝編年稿』、『近世武家名目一覧』や『集古文書』といった重要な書籍を自ら編著しました。これらの作品は、国学の研究や日本史の理解を深めるために、今でも多くの研究者に利用されています。

暗殺とその背景

しかし、忠宝の生涯は明るさとは裏腹に、悲劇的な結末を迎えます。文久2年、江戸幕府老中である安藤信正の命を受け、彼は前田夏蔭と共に幕府以前の外国人待遇に関する調査を行いました。この過程で、彼らが「廃帝の典故」について調査しているとの誤解が生じ、勤皇の志士たちを刺激する結果となりました。

1862年12月21日、忠宝と知人である加藤甲次郎が自宅の前で襲われ、忠宝は襲撃されました。恵まれた才能を持った国学者が、政治的な背景に巻き込まれて命を落とすという悲劇的な出来事だったのです。彼はその日、和歌の会からの帰宅途中での襲撃を受け、翌日には亡くなりました。

この暗殺事件の背後には、伊藤博文と山尾庸三が関与しているとの見方があります。実際、大正10年に行われた忠宝の六十年祭において、渋沢栄一がその事実を語ったとされています。それによると、伊藤本人は自らの関与を否定したが、彼の周囲では暗殺に関与したという証言が存在することが明らかになっています。

忠宝の後世への影響

忠宝の暗殺後、彼の子供である塙忠韶は、明治維新後に政府からの招待を受け、大学の少助教に任命されました。彼はその後、文部小助教や修史局御用掛へと出世を果たしていきます。この異例の出世について、作家の司馬遼太郎は、伊藤博文がその死に対する自責の念から忠韶を厚遇したのではないかと推測しています。

また、山尾庸三は明治維新後、障害者教育に力を注ぎ、盲学校や聾学校の設立を訴えるなどの活動に従事しました。特に彼が設立に関わった東京盲唖学校は、忠宝の命日である12月22日（新暦）に設立され、このことが忠宝の暗殺への贖罪の意識とも考えられています。

要するに、塙忠宝は学問と歴史に多大な貢献をしながらも、政治的な対立の中で命を落とした捧げられた学者であり、彼の生涯はその後の人物たちにも影響を残し続けています。忠宝の存在は、日本の国学や歴史を理解する上で欠かせない重要な要素となっているのです。

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