安藤信正

安藤信正（あんどう のぶまさ）

安藤信正は、江戸時代後期の大名であり、陸奥国磐城平藩の第5代藩主です。対馬守系安藤家の10代目にあたります。幕末期には若年寄、次いで老中を務め、幕府の要職を歴任しました。その生涯は、激動の幕末の政治情勢に翻弄され、波乱に満ちたものでした。

生涯

家督相続

文政2年（1819年）11月25日、磐城平藩の第4代藩主・安藤信由の嫡男として江戸藩邸で生まれました。幼名は欽之進、後に欽之介と称しました。元服時には信睦（のぶゆき）と名乗り、老中在職中に信行（のぶゆき）、さらに信正と改名しています。

天保6年（1835年）に11代将軍・徳川家斉に御目見し、同年には従五位下・伊勢守に叙任されます。その後、長門守、対馬守と官位を改めました。弘化4年（1847年）に父の死去に伴い家督を継ぎ、磐城平藩の藩主となります。翌年には奏者番に就任し、幕府内での地位を確立しました。

老中在任期

安政5年（1858年）、寺社奉行加役を経て、大老・井伊直弼の下で若年寄に就任します。安政7年（1860年）には老中に昇進しますが、直後に桜田門外の変で井伊直弼が暗殺されます。信正は、混乱を収拾し、久世広周を老中に再任させ、幕政を主導しました。

信正は、井伊直弼の強硬路線を転換し、朝廷との関係を重視する公武合体政策を推進しました。その一環として、孝明天皇の妹・和宮の14代将軍・徳川家茂への降嫁を実現させました。また、長井雅楽の『航海遠略策』を承認するなど、幕府と朝廷の関係改善に尽力しました。

しかし、国内では攘夷論が高まり、アメリカ公使館通訳のヘンリー・ヒュースケン殺害事件などが発生しました。信正は、アメリカが南北戦争で日本に介入できなかったこともあり、これらの問題を無難に処理しました。また、諸外国との条約締結に伴う金貨流出問題や物価高騰問題に対しても、対策を講じました。

坂下門外の変

文久2年（1862年）1月15日、和宮降嫁に反発する尊王攘夷派の水戸浪士に襲撃され、背中に負傷しました（坂下門外の変）。重傷を負いながらも、直後にイギリス公使のオールコックと会見したことが伝えられています。

しかし、幕閣内からは「背中に傷を受けるとは武士として恥ずかしい」という批判が上がり、女性問題やアメリカとの収賄疑惑なども囁かれ、信正は老中を罷免されます。その後、隠居と謹慎を命じられ、所領も減封されました。

明治維新期

大政奉還後、明治政府が発足すると、信正は若年の藩主・信勇に代わって藩政を指揮しました。新政府軍に抵抗しましたが、磐城平城は落城し、信正は降伏し謹慎を余儀なくされました。明治2年（1869年）に永蟄居処分を解かれ、明治4年（1871年）に51歳で亡くなりました。

官歴

文政2年（1819年）12月28日 - 元服し、信睦と名乗る。
天保6年（1835年）12月16日 - 従五位下・伊勢守に叙任。
天保14年（1843年）閏9月12日 - 長門守に遷任。
弘化4年（1847年）5月5日 - 家督相続し、陸奥国磐城平藩主となる。
弘化4年（1847年）8月1日 - 江戸城の雁間詰となる。
弘化5年（1848年）1月23日 - 奏者番に補任。
嘉永4年（1851年）6月9日 - 寺社奉行加役（見習）。
嘉永4年（1851年）12月21日 - 寺社奉行（本役）。
安政3年（1856年）12月1日 - 対馬守に遷任。
安政5年（1858年）8月1日 - 若年寄。
安政6年（1859年）7月21日 - 勝手掛兼務。
安政6年（1859年）8月28日 - 常陸国水戸藩御用向取扱兼務。
安政7年（1860年）1月15日 - 老中に補任。外国御用取扱を兼務。
万延元年（1860年）閏3月18日 - 従四位下に昇叙。
万延元年（1860年）6月24日 - 侍従兼務。
万延元年（1860年）10月28日 - 諱を信行と改める。
万延元年（1860年）12月21日 - 勝手入用掛を兼務。
文久元年（1861年）3月21日 - 外国御用取扱の功により1万石加増。
文久2年（1862年）1月15日 - 坂下門外の変で負傷。
文久2年（1862年）3月26日 - 諱を信正と改める。
文久2年（1862年）4月11日 - 老中免職。江戸城の溜間詰格となる。
文久2年（1862年）8月16日 - 隠居謹慎処分。2万石召上。
文久2年（1862年）11月20日 - 永蟄居処分。
慶応4年/明治元年（1868年）3月1日 - 磐城平に帰国。鶴翁を号す。
慶応4年/明治元年（1868年）5月3日 - 奥羽越三十一藩同盟が成立。
慶応4年/明治元年（1868年）7月13日 - 磐城平城陥落。
慶応4年/明治元年（1868年）9月14日 - 信正降伏し、謹慎する。
慶応4年/明治元年（1868年）12月7日 - 永蟄居処分。
明治2年（1869年）9月10日 - 永蟄居免ずる。

系譜

父母
安藤信由（父）
松平信明の娘（母）
正室
苞 - 松平宗発の娘
子女
安藤信民（長男）
安藤信守
鈺子 - 堀之美正室、後に京極高典継室
力 - 内藤正誠正室、後に副田欣一室

登場作品

テレビドラマ

『篤姫』（2008年、NHK大河ドラマ、演：白井晃）
『青天を衝け』（2021年、NHK大河ドラマ、演：岩瀬亮）

小説

「安藤信睦」（徳永真一郎『幕末閣僚伝』収録、毎日新聞社、のちPHP文庫）

漫画

『風雲児たち 幕末編』（みなもと太郎）

関連項目

公武合体
坂下門外の変
ロシア軍艦対馬占領事件

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