増山正賢

増山正賢：文人大名としての生涯と功績

増山正賢（ましやま まさかた）は、宝暦4年（1754年）に生まれ、江戸時代中期から後期にかけて伊勢長島藩の第5代藩主を務めた人物です。彼は単なる藩主としてだけでなく、文化人としての才能を発揮し、文人大名として名を残しました。

生涯

正賢は、第4代藩主・増山正贇の長男として江戸で生まれました。幼少の頃から学問に励み、明和8年（1774年）には将軍徳川家治に御目見えし、同年には従五位下・河内守に叙任されました。安永5年（1776年）に父の死去に伴い、23歳で家督を相続し、伊勢長島2万石の藩主となります。

藩主としては大坂城加番などを務めましたが、政治手腕は必ずしも高くなかったとされています。しかし、文化面においては卓越した才能を発揮し、当時の文化を牽引する存在となりました。天明5年（1785年）には、儒官の十時梅厓に命じて藩校・文礼館を創設し、孔子廟も設けるなど、藩の教育水準の向上に尽力しました。また、多くの文化人を長島藩に招聘し、文治の発展に貢献しました。

正賢自身も書画に優れ、山水画や花鳥画などを得意としました。囲碁や煎茶にも造詣が深く、その芸域は多岐にわたりました。文芸に秀でた文人大名として、多くの人々から尊敬を集め、その著作には『松秀園亭舎記』や『煎茶式』などがあります。

享和元年（1801年）に48歳で隠居し、家督を長男の正寧に譲りました。隠居後は江戸巣鴨の下屋敷で悠々自適の生活を送りましたが、文化に没頭するあまり、幕府の奢侈禁止令に違反したとして文化元年（1804年）に謹慎処分を受けています。文政2年（1819年）に江戸築地で死去、享年66歳。

墓所は東京都台東区の上野寛永寺（勧善院）にありましたが、現在は中野蓮華寺に移されています。

文人大名としての業績

正賢は、雪斎という号で知られ、風雅を愛でる文人大名として名を馳せました。書は趙陶斎から唐様を学び、画は木村蒹葭堂を師としました。特に南蘋派の精緻な画風は、大名の余技とは思えないほどの完成度を誇り、田能村竹田からは「気韻生動がある」と絶賛されました。花鳥画を得意とし、中でも虫類写生図譜『虫豸帖』は、本草学的にも貴重な資料となっています。また、文人画風の山水図も多く残しています。

正賢は、藩士の十時梅厓や春木南湖の才能を見抜き、彼らを長崎へ遊学させて清人から画技を学ばせました。また、幕臣の大岡雲峰や上條犀淵も正賢の画業の弟子であったと伝えられています。

正賢は、文人墨客との交流を好み、彼らの庇護者となりました。酒造統制違反で大坂を追われた木村蒹葭堂を自領に招き、窮地を救ったことは有名なエピソードです。その他にも、大田南畝、菊池五山、宋紫石、渡辺玄対、大窪詩仏、同じく文人大名として知られる福知山藩主の朽木昌綱など、多くの文化人と交流しました。

主な作品

「虫豸帖」 東京国立博物館所蔵
「花鳥図」（1794年） 三重県立美術館所蔵
「孔雀図」 名古屋市博物館所蔵
「村長居宅図」（1797年） 桑名市照源寺所蔵

著作

『観奕記』 享和3年（囲碁について）
『松秀園亭舎記』 寛政5年（書画について）
* 『煎茶式』 文化年間（煎茶道について）

増山正賢は、政治家としては必ずしも卓越していたとは言えませんが、文化人としては非常に優れた才能を発揮し、江戸時代の文化発展に大きく貢献しました。彼の残した作品や文化人との交流は、今もなお高く評価されています。

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