夏 (五胡十六国)

夏（か）：五胡十六国時代の政権

夏（407年 - 431年）は、五胡十六国時代に匈奴鉄弗部の赫連勃勃（劉勃勃）によって建てられた政権で、「大夏」とも呼ばれます。その短いながらも激動の歴史を紐解きます。

夏の起源：匈奴鉄弗部

夏の支配氏族は匈奴鉄弗部の劉氏（後の赫連氏）で、南匈奴屠各種に属する谷蠡王の劉尸利を祖とします。後漢末の南匈奴の単于一門、羌渠の弟である右賢王の去卑を始祖とする一族です。去卑は、献帝の長安脱出に貢献し、曹操の信任を得て南匈奴諸部を監督しました。

鉄弗部時代の苦難

310年、去卑の孫の劉虎が鮮卑拓跋部に敗れてオルドスへ逃れ、この地に割拠しました。劉虎の孫の劉衛辰は族長となると、再び鮮卑拓跋部に敗れ、前秦領内へ逃れました。376年、劉衛辰は前秦の拓跋部討伐に従い功績を立て、オルドスに戻り拓跋部・柔然を服属させ一大勢力を形成します。

386年、拓跋部が再興（後の北魏）すると劉衛辰はこれに勝てず、391年に北魏の遠征軍によって殺され、鉄弗部は一時滅亡しました。劉衛辰の子の劉勃勃（後の赫連勃勃）はオルドス西南部の高平まで逃れましたが、後秦へ身を寄せました。

夏の建国と拡大

407年、劉勃勃は旧鉄弗部や鮮卑諸部を糾合し、後秦から自立して大単于・大夏天王と称し、龍昇と建元して大夏国を建てました。オルドス全域を平定し、413年には赫連氏への改姓や統万城の築城など、着々と勢力を固めていきました。北魏に対しては、北燕と盟を結んで牽制し、山西一帯を攻撃して優勢に立ちました。

417年、関中の後秦が東晋の劉裕によって滅ぼされると、418年に夏軍は南下して東晋を破り、長安など関中諸城を占領しました。赫連勃勃は帝位に即き、翌419年に真興と改元し、統万城を都に定めました。この頃、夏の領域は関中・オルドス・山西南部に及び、吐谷渾・北涼を服属させ、華北西部に大勢力を築きました。

夏の衰退と滅亡

424年、長安で反乱が起こり内乱状態となり、425年に赫連勃勃が死去すると、夏の勢力は急速に衰退しました。426年、夏は西秦を攻め都の枹罕を陥しましたが、北魏はこの機に乗じて夏へ侵攻し、関中諸城を占領しました。427年、北魏は都の統万城を占領し、二代皇帝赫連昌は上邽を都に定め抗戦するも各地で北魏に敗れました。428年、赫連昌は北魏に捕らえられました。

赫連昌の弟の赫連定は逃亡先の平涼で大夏皇帝に即位し、各地の敗残兵を糾合すると、関中全域及び統万城を除くオルドス諸城を奪回しました。430年、南朝宋と同盟を結び統万城奪回に向かいますが、北魏は夏へ侵攻し、ついに夏都平涼も陥落しました。赫連定は敗残兵を率いて上邽へ逃れました。

431年1月、赫連定は再起を図るため西へ進み、南安の西秦を攻めてこれを滅ぼし、ついで北涼遠征を行いましたが、吐谷渾軍に襲われて壊滅し、赫連定も捕らえられて大夏政権は滅亡しました。

夏の遺産

現存する夏の文物としては、統万城遺址、代来城遺址、太夏真興銭、田焽墓誌、大夏石馬、施文造像、敦煌・トルファン文書数点があります。また、大夏龍雀刀や統万城南碑頌などが知られています。

夏を支えた名臣たち

叱干阿利: 鮮卑叱干部族長の一族。劉勃勃を匿い、夏の建国に貢献。統万城の築城を指揮しました。
烏洛孤: 御史中丞として外交を担当。北燕、北涼との同盟を成立させました。
王買徳: 軍師として多くの戦いで作戦を立案。関中平定戦で活躍しました。
赫連韋伐: 赫連勃勃の弟。西征軍を率い、西秦を滅ぼしました。
赫連那勿黎: 赫連勃勃の子。夏の滅亡後、北魏に降り夏の遺民を率いました。

夏の君主

赫連勃勃（在位407年 - 425年）
赫連昌（在位425年 - 428年）
赫連定（在位428年 - 431年）

元号

龍昇（407年-413年）
鳳翔（413年-418年）
昌武（418年-419年）
真興（419年-425年）
承光（425年-428年）
勝光（428年-431年）

夏は短命な政権でしたが、その勢力は華北西部に大きな影響を与え、その文化遺産は現在も残っています。

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