外山道子

外山道子（とやま みちこ）は、1912年または1913年に誕生し、2006年にその生涯を閉じた日本の作曲家です。大阪音楽大学の教授も務め、日本人として初めて国際的な作曲コンクールで入賞を果たした先駆者として知られています。

大阪市中之島に生まれた外山は、祖父と父が実業家、母が東京音楽学校でピアノを学んだ音楽愛好家という、音楽に理解のある裕福な家庭で育ちました。幼少期から音楽に親しみ、特にピアノは、自宅に滞在していたロシア人ピアニスト、パーヴェル・コヴァリョーフから手ほどきを受けました。ピアノへの深い情熱から、父が校主を務めていた羽衣高等女学校をわずか2年で中退し、音楽の道に専念する決意を固めます。1928年には慈善音楽会でピアニストとして出演するなど、その才能の片鱗を見せていました。

独学でフランス語を習得した外山は、1930年にピアノをさらに深く学ぶため、単身パリへ渡り、アンリ・ジル＝マルシェックスに師事します。やがて作曲への関心を深め、1936年からはエコールノルマル音楽院で、20世紀を代表する音楽教育者の一人、ナディア・ブーランジェのもとで作曲法を学び始めました。この時期に作曲されたソプラノと室内アンサンブルのための作品『やまとの声』は、ジャック・イベールの推挙を受け、1937年にパリで開催された国際現代音楽協会主催の音楽祭に応募されました。この作品が見事入賞を果たし、外山道子は日本人作曲家として初めて国際コンクールで栄誉に輝くという歴史的な快挙を成し遂げたのです。

1939年に日本へ帰国した外山は、1941年に結婚し一男一女を授かりますが、1945年には夫を戦禍で失うという悲劇に見舞われます。戦後は、音楽教育者としての道を歩み、1951年に大阪音楽短期大学の助教授に就任。対位法やピアノの指導にあたり、大野正雄や本田周司といった後進の育成にも力を注ぎました。

教育活動と並行して、外山はさらなる音楽的探求のため、二人の子を母に託して再び海外へ渡ります。1954年にはパリ国立高等音楽・舞踊学校で、ダリウス・ミヨー、オリヴィエ・メシアン、ノエル・ギャロンといった、当時の最先端を行く作曲家らに師事し、作曲で学位を取得しました。また、ラディオディフュジオン・フランセーズでは、ミュジーク・コンクレートの提唱者の一人であるピエール・シェフェールから電子音楽の手法を学び、その革新的な分野への関心を深めます。1955年からは約6年間にわたり、ニューヨークのコロンビア大学に留学し、オットー・ルーニングとヴラディーミル・ウサチェフスキーのもとで、電子音楽の創作と研究に没頭しました。この間、エコール・ピエール・モントゥーで指揮法を学び、タングルウッド音楽祭ではロジャー・セッションズの指導を受けるなど、幅広い音楽分野で自己を磨きました。

こうした研鑽を経て、1960年には代表作である『和歌』、『やまとの声』、そして日本民謡を素材とした作品を含むLPレコード「Waka and Other Compositions: Contemporary Music of Japan」が、フォークウェイズ・レコードから発売され、その国際的な評価を確固たるものにしました。1961年に帰国後も、大阪音楽大学での教育活動に加え、京都大学、東京大学、郵政省電波研究所などで研究生として音響学の研究にも携わるなど、常に学びと探求の姿勢を崩しませんでした。作曲活動も精力的に続け、1993年には日本現代音楽協会主催の「現代の音楽展」にて、代表作の一つである『やまとの声』が日本で初めて演奏される機会を得ました。

外山道子は、伝統的な日本の音楽素材と、欧米で習得した最先端の作曲技法や電子音楽の手法を結びつけ、独自の音楽世界を切り開きました。華やかな国際デビュー、戦禍を乗り越えた不屈の精神、そして生涯にわたる学びへの探求心は、日本の近代音楽史において特筆すべき存在感を示しています。教育者、研究者としても多大な貢献を残し、その功績は今なお色褪せません。

主要作品：

ソプラノ、フルート、クラリネット、バスーン、チェロのための『やまとの声』（1937年）
ヤカマロの死
春
祈り
やまびこ
うまし国、やまと
ヴァイオリン協奏曲（1953年）
日本民謡による組曲（1956年）
子守歌
追分
籾つき歌
管弦楽のための『パッサカリヤ』（1957年）
テープと朗読による『和歌』（1958年）
琴伴奏付きの2つの古い日本民謡（1958年）
通りゃんせ
高い山から
* テープと朗読による音楽劇『葵上』（1959年）

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