大串貝塚

大串貝塚：古代の息吹を感じる場所

大串貝塚は、茨城県水戸市塩崎町に位置する縄文時代前期の重要な遺跡です。特に注目すべきは、奈良時代に編纂された『常陸国風土記』に「大櫛之岡」として記述されている点で、これは文献に記録された最古の貝塚として知られています。

位置と環境

貝塚は、太平洋へと注ぐ那珂川の下流、その右岸に広がる那珂台地の端に位置しています。縄文時代前期には、涸沼川が河口から内陸へと入江のように広がっており、大串貝塚はその入江の北岸に面していました。この地理的条件から、淡水と海水が混ざり合う豊かな環境であったことが想像できます。

発見と調査の歴史

大串貝塚が学会に知られるようになったのは1885年頃のことです。その後、何度か小規模な発掘調査が行われましたが、遺跡全体を対象とした本格的な調査はまだ行われていません。1936年には、田沢金吾と大場磐雄によって調査が実施されました。

1943年の調査では、ヤマトシジミ、マシジミ、ハマグリ、アサリ、カキ、アワビ、サザエなど、多種多様な貝類が出土しました。これらの貝類が淡水産と海産の両方を含んでいることから、当時この地が入江状の地形であり、川が流れ込む場所であったことがわかります。戦後には、1950年に日本考古研究所の酒詰仲男と広瀬栄一らが調査を行い、縄文時代前期の花積下層式土器が出土する貝塚であることが確認されました。

出土品からわかること

1985年の発掘調査では、石鏃、貝輪、貝刃、ヤス、釣針などの骨角器や、スズキ、タイ、フグなどの魚類、イノシシ、シカなどの獣骨が発見されました。これらの出土品は、当時の人々の生活や食料調達の方法を知る上で貴重な手がかりとなります。

大櫛之岡と巨人伝説

『常陸国風土記』には、平津駅家の西方にある「大櫛之岡」には、かつて“長大な人”が住んでいたという記述があります。この“長大な人”は、現代の民俗学では日本の巨人「ダイダラボッチ」の代表的な例とされています。伝説によれば、“長大な人”は岡にいながら海辺に手を伸ばして大蛤を掘り起こして食べ、その食べ残しの貝殻が積もって岡になったとされています。そして、人々は大量の貝が朽ちている様子から、この岡を「大朽」と呼んでいましたが、それが訛って「大櫛之岡」と呼ばれるようになったと伝えられています。この大櫛之岡の比定地として、大串貝塚が有力視されています。

小説家の松本清張も、この巨人伝説に魅せられ、1970年に大櫛之岡の巨人伝説を題材にした推理小説『巨人の磯』を発表しました。

まとめ

大串貝塚は、縄文時代の生活を知る上で貴重な遺跡であるとともに、古代のロマンを感じさせる場所でもあります。「大串貝塚ふれあい公園」として整備されており、歴史に触れながら自然を楽しむことができます。ぜひ一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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