大久保忠増

大久保忠増：宝永大噴火と揺らぐ藩政、そして老中としての生涯

大久保忠増は、江戸時代前期から中期にかけて活躍した、重要な歴史人物です。相模国小田原藩の第2代藩主として、また幕府の老中として、その名を残しています。

忠増は初代藩主大久保忠朝の長男として生まれ、数々の要職を歴任しました。寺社奉行や若年寄を経て、老中という最高職にまで上り詰めた彼のキャリアは、類まれな政治手腕と、幕府内部での高い信頼性を示しています。しかし、彼の在任中には、藩を揺るがす大規模な自然災害に見舞われることになります。

宝永大噴火と小田原藩

宝永4年（1707年）、富士山は歴史的な大噴火を起こしました。この宝永大噴火は、約2ヶ月前に発生した宝永地震を契機に起きたと考えられており、小田原藩領内の足柄上郡と駿東郡は壊滅的な被害を受けました。当時、老中として江戸にいた忠増は、家臣の柳田久左衛門に被害状況の調査を命じましたが、直ちに指揮を執ることが困難な状況でした。さらに、4年前の元禄大地震からの復興も道半ばであり、財政状況も逼迫していたことから、藩単独での対応は困難を極めました。

被災地の住民は幕府への直訴を検討する事態となり、忠増は藩の窮状を憂慮しました。彼は私財を投じ、自身の所有する貴重な宝物を売り払い、日々の生活も質素なものへと切り替えました。さらに、将軍への嘆願を通して、被災地からの火山灰除去費用などを確保しようとしました。最終的に、藩単独での復興を断念し、幕府への救済を要請せざるを得ない状況に追い込まれました。

幕府による救済と藩の復興

翌宝永5年（1708年）、幕府は被害の甚大だった足柄地方と御厨地方（現在の御殿場市）の6万石を一時的に天領としました。代わりに、小田原藩には伊豆、美濃、播磨のいずれかの地域が与えられるという措置がとられました。幕府は関東郡代伊奈忠順を復興総奉行に任命し、全国から高役金（臨時課税）を徴収して復興資金を確保しました。被災地の土地改良や河川改修などの費用として、48万両余りが投入され、備前岡山藩など複数の諸大名がその作業に従事しました。

しかし、足柄・御厨地域6万石が小田原藩に返還されたのは、噴火から35年後の延享4年（1747年）のことでした。火山灰による土砂災害が頻発し、酒匂川はたびたび氾濫を繰り返しました。足柄平野の完全な復興には、噴火から実に76年後の天明3年（1783年）までを要したのです。

忠増の生涯とその後

大久保忠増は、正徳3年（1713年）7月25日に58歳で亡くなりました。老中在職中の逝去でした。跡を継いだのは、六男の忠方です。忠増の生涯は、老中としての政治活動と、宝永大噴火という未曽有の災害への対応によって、大きな転換点を迎えた激動の時代を反映しています。富士山噴火は自然の脅威を改めて認識させ、藩政運営の難しさ、そして幕府と地方藩の関係性の複雑さを示す出来事でした。彼の尽力は、自然災害に直面した際の藩の対応や、幕府による災害復興支援のあり方について、貴重な教訓を残しています。

略歴

1656年（明暦2年）：誕生
1670年（寛文10年）：従五位下に叙位、安芸守に任官
1681年（延宝9年）：奏者番就任
1683年（天和元年）：1万石加増
1685年（貞享2年）：寺社奉行兼帯
1687年（貞享4年）：若年寄に異動
1688年（貞享5年）：若年寄辞職、1万石返上
1698年（元禄11年）：小田原藩主相続
1700年（元禄13年）：従四位下に昇叙
1703年（元禄16年）：元禄地震発生
1705年（宝永2年）：老中就任
1707年（宝永4年）：宝永地震、富士山噴火
1713年（正徳3年）：死去

系譜

父：大久保忠朝
母：村越氏（側室）
正室：松平忠弘の娘
側室：石井氏、向井氏
子女：大久保忠方（六男）、石川総陽（七男）、宇津教保、宇津教逵、岩姫（松平定逵正室）

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