大天使ラファエルとトビアス (ゴヤ)

大天使ラファエルとトビアスの絵画

『大天使ラファエルとトビアス』は、スペインの偉大な画家フランシスコ・デ・ゴヤによって1789年に描かれた油彩画です。この作品は、旧約聖書の外典である「トビト書」からインスピレーションを得た作品で、信仰心深いユダヤ人トビトの息子トビアスと大天使ラファエルの物語を描いています。特にこの絵画は、当時の宗教的情熱とゴヤ自身の独特なスタイルが融合したものであり、ライトとシェードの使い方において卓越した技術を示しています。

物語の背景

物語は、8世紀ごろのアッシリア捕囚の時代に設定されています。トビトという名前のユダヤ人は、信仰深く、盲目になった後、息子のトビアスに遠方のメディアまで行って借金を回収してくるように命じます。トビアスは旅の途中で、大天使ラファエルが彼を導くことになります。二人はティグリス川のほとりで生き残りを果たし、トビアスはラファエルの助言に従って魚を捕まえ、その内部から特別な部位を取り出します。これが物語の核心を形成します。

トビアスはエクバタナでサラという女性と出会いますが、彼女は悪魔アスモデウスにとりつかれ、これまでの7度の結婚で夫を失っていました。トビアスは、ラファエルの助言に従い、捕まえた魚の臓器を使って悪魔を追い払い、サラと結婚します。その後トビアスはニネヴェに帰り、魚の胆嚢から取り出した胆汁を使い、盲目の父トビトの目を癒します。これは奇跡的な物語であり、信仰と運命の交差点に位置しています。

絵画の特徴

ゴヤのこの作品は、トビアスが魚を捕らえた瞬間を捉えています。薄暗い夕暮れ時に設定された場面では、トビアスは捕らえた魚を手に持ちながら、大天使ラファエルの前にひざまずき、神聖な雰囲気が漂っています。ラファエルはその輝かしい姿で描かれ、周囲を明るく照らしています。ゴヤはこの大天使をアポロンのように彫刻的な美しさで描写し、彼に神聖な光を与えています。

光の使い方は特に目を引き、ラファエルの発する光はこの絵画の唯一の光源です。大天使の後光は白い翼に反射し、トビアスの赤いマントとラファエルの帯のピンク色が際立ち、全体に神秘的な雰囲気をもたらしています。これは当時の科学的理解に基づく光の拡散についての研究を反映していると考えられます。この絵画は、新古典主義の特徴を持ちながらもゴヤ独自のスタイルを色濃く表現しており、他の宗教画とも共通する要素があります。

制作の背景

この作品は、個人的な礼拝のために制作されたと考えられており、特に宗教的な支援者のために描かれた可能性があります。トビアスの物語は商業的な側面とも結びついており、商人が子供を遠方に送り出す際の願いを反映しているとも言えます。さらに、ゴヤ自身の家庭状況、特に彼の息子が病に倒れていた時期とも重なります。そのため、トビアスの物語に登場する大天使ラファエルが特に意味を持つことが推測されます。

作品の発見と評価

この絵画の初期の来歴は不明ですが、2003年にはマドリードの個人コレクションから発見されました。専門家による評価の結果、作品の品質の高さが認識され、プラド美術館に収蔵されることとなりました。この作品は、ゴヤの他の作品と共に公開され、多くの観客に感動を与え続けています。当時の重要な文化遺産として、今日でも感謝されるべき作品です。

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