大御所 (江戸時代)

江戸幕府における大御所

江戸幕府において「大御所（おおごしょ）」とは、征夷大将軍の職を退き、隠居した前将軍を指す尊称です。この制度は、将軍が退位した後も政治的な影響力を持ち続けることを可能にするものでした。

大御所の由来

大御所の名が正式に用いられるようになったのは、1603年に征夷大将軍となり江戸幕府を開いた徳川家康が、1605年に将軍職を子の徳川秀忠に譲り隠居した時からです。この時、家康に対して「大御所」という敬称が用いられました。ただし、前将軍に対して大御所の尊称を用いる慣習は、鎌倉時代・室町時代からすでに存在していました。

大御所政治

特に有名なのは、駿府を中心に徳川家康（大御所）が行った政治です。将軍となった徳川秀忠との間で、二元政治が行われました。この時期の政治体制については、「江戸幕府」の項目を参照してください。

二代将軍・秀忠も1623年に将軍職を息子の徳川家光に譲って隠居し、大御所となりました。秀忠は1632年に病死するまで、政治の実権を握り続けました。この時期、幕府内では、大御所である秀忠側近を中心とした「西丸派」と、将軍である家光を中心とした「本丸派」の対立がありました。西丸派は、主に秀忠の側近で構成され、本丸派は新旧の譜代層で構成されていました。

秀忠・家光 二元政治の幕閣

江戸城西丸（大御所）：徳川秀忠
土井利勝・井上正就・永井尚政・青山幸成・森川重俊（西丸老職・秀忠側近）
江戸城本丸（将軍）：徳川家光
酒井忠世・酒井忠利・稲葉正勝・阿部正次・酒井忠勝・内藤忠重（本丸老職）
松平信綱・阿部忠秋・堀田正盛・三浦正次（小姓組番頭・家光側近）
米津田政・島田利正（江戸町奉行）


また、八代将軍・徳川吉宗も1745年に将軍職を息子の徳川家重に譲り隠居しましたが、家重には言語障害があったため、1751年に死去するまで、吉宗が実権を握り続けました。九代将軍・徳川家重も1760年に将軍職を息子の徳川家治に譲って隠居しましたが、言語を唯一理解出来た御側御用人大岡忠光の死去を受けての引退であり、翌年に病死したため、大御所として政治的実権を握ることはありませんでした。

十一代将軍・徳川家斉は将軍就任直後、将軍ではなかった実父・徳川治済に大御所号を贈ろうとしましたが、老中・松平定信に前例がないとして反対され、断念しました（大御所事件）。しかし、家斉自身も1837年に将軍職を息子の徳川家慶に譲った後も、1841年に死去するまで大御所として政治の実権を握り続けました。家斉の治世は50年以上にも及んだため、将軍在任中も含めて「大御所時代」と呼ばれることが多いです。

十五代将軍・徳川慶喜も生存中に将軍職を辞し、宗家の家督も徳川家達に譲りました。これは、過去の大御所と似た存在と言えます。しかし、徳川幕府が政権を返上した後の出来事であり、徳川家の家政も執らず別家を立てて当主となっているため、同列にはできません。

このように、大御所は隠居した前将軍でありながら、政治に大きな影響力を持つ存在でした。特に、徳川家康、徳川秀忠、徳川吉宗、徳川家斉の時代には、大御所による政治が展開されました。

関連項目

大御所
院政

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