大戸浦野氏

大戸浦野氏：上野国に拠った武士の一族

大戸浦野氏（おおどうらのし）は、戦国時代に上野国吾妻郡大戸地区（現在の群馬県東吾妻町周辺）に拠点を置いた武士の一族です。出自は信濃国小県郡浦野荘とされ、同地の滋野氏一族である根津氏の流れを汲む浦野氏と同族であると考えられています。しかし、浦野本家との具体的な血縁関係や、大戸浦野氏がどのようにして成立したのかは、詳しいことはわかっていません。名字は「浦野」ですが、拠点とした地名から「大戸氏」とも呼ばれていました。家紋は六文銭を使用していたとされています。

室町時代から戦国時代へ

大戸浦野氏が歴史に登場するのは、室町時代末期の永正6年（1509年）のことです。連歌師の柴屋軒宗長が、大戸の浦野三河守を訪ねた記録が残っています。その後、永正10年（1513年）には、箕輪・室田を拠点とする長野憲業に大戸城を攻められ、長野氏の支配下に入りました。大戸浦野氏は、長野氏の配下として、関東管領である山内上杉氏や、後北条氏などに仕えました。永禄3年（1560年）には、長尾景虎（後の上杉謙信）が関東に侵攻した際、長野業政に従い、その配下として「大戸中務少輔」の名前が記録されています。

武田氏への従属と転戦

永禄4年（1561年）末、武田信玄が西上野に侵攻を開始すると、大戸浦野氏の当主と見られる浦野中務少輔（後の浦野真楽斎）は、同郡の国衆である鎌原重澄を通じて武田氏に服属しました。翌5年（1562年）には、長野氏領であった権田・室田に攻め込み、長野三河入道を討ち取り、武田氏への忠誠を示しました。真楽斎は、武田信玄から「三島・山県・権田・三蔵・水沼・岩氷」などの地を所領として与えられ、本拠である大戸地区に加え、榛名山南麓の烏川流域も支配下に置きました。

武田氏配下の大戸浦野氏は、10騎を率いていたとされ、上野先方衆の中では最も少ない動員数でしたが、本拠地である大戸城が吾妻郡の重要な拠点であったため、武田氏からも重視されました。武田氏との連絡役は、当初は甘利昌忠、後に内藤昌秀や真田昌幸が務めました。

大戸浦野氏の一族は、武田氏の各地の合戦に参加し、永禄12年（1569年）の三増峠の戦いでは、真楽斎の弟である民部右衛門尉が戦死しました。また、浦野真楽斎・弾正忠父子も各地を転戦し、弾正忠は天正9年（1581年）の高天神城攻防戦で戦死しました。

武田氏滅亡後の動向

天正10年（1582年）3月、武田氏が滅亡すると、浦野真楽斎ら大戸浦野氏は、上野国衆の安中七郎三郎を通じて織田氏に仕え、関東に赴任してきた滝川一益の配下となりました。しかし、その後の天正壬午の乱で、真楽斎は北条氏邦を通じて後北条氏に仕えました。さらに、10月には、吾妻郡で勢力を誇る真田昌幸が後北条氏に敵対し、北条氏直から真楽斎に真田氏の離反が伝えられました。

ところが、天正12年（1584年）2月までに大戸浦野氏は後北条氏から離反し、3月には北条氏邦によって大戸城を攻略されてしまいました。この際、大戸浦野氏が上杉景勝に転じたとする説や、真田昌幸に同調して攻められたとする説があります。また、『加沢記』には、真田氏に通じた真楽斎・但馬守兄弟が、後北条氏に攻められ手子丸城で討ち死にしたと記されています。この戦いを最後に、大戸浦野氏の動向は確認できなくなり、没落したと考えられています。大戸地区は、北条氏邦の重臣である斎藤定盛によって直接支配されることになりました。

主な人物

浦野真楽斎：永禄年間から天正年間にかけての大戸浦野氏の当主。長野業政の娘を妻とした。斎藤憲広の妹も妻だったという説もありますが、年代が合わないとも指摘されています。
浦野弾正忠：天正年間における大戸浦野氏の当主で、真楽斎の嫡男。海野幸光の娘を妻に迎えました。天正6年（1578年）までに家督を継ぎますが、天正9年（1581年）に高天神城で戦死しました。その後、再び父の真楽斎が家督を務めました。

脚注

[参考文献]
柴辻俊六; 平山優; 黒田基樹ほか編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年。
黒田基樹『増補改訂　戦国大名と外様国衆』戎光祥出版、2015年。
久保田順一『戦国上野国衆事典』戎光祥出版、2021年。
* 宮坂武男『信濃をめぐる境目の山城と館　上野編』戎光祥出版、2015年。

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