大樹寺

大樹寺（だいじゅじ / だいじゅうじ）

愛知県岡崎市鴨田町に位置する大樹寺は、浄土宗の寺院であり、正式には成道山松安院大樹寺と称します。この寺は、徳川家（松平氏）の菩提寺として、その歴史と文化において重要な役割を果たしてきました。

歴史

三河松平家菩提寺の創建

大樹寺の歴史は、応仁元年（1467年）の第一次井田野合戦に遡ります。この戦いで戦死した者を弔うため、安城松平家の当主、松平親忠は千人塚を築きました。その後、文明7年（1475年）に塚の異変を鎮めるため、親忠は念仏堂を建て、さらに旧館址に寺を建立しました。増上寺の開山、聖聡の孫弟子である勢誉愚底を開山として迎え、この寺を「大樹寺」と名付けました。「大樹」という寺号は、征夷大将軍の唐名に由来するという説と、釈迦入滅の地の沙羅双樹にちなむという説があります。

親忠は大樹寺を安城松平氏の菩提寺とし、先代の松平親氏、松平泰親、松平信光の墓を移設しました。現在も信光明寺にはこれらの墓とされる宝篋印塔が残っており、大樹寺の墓はそこから移されたという説もあります。天文4年（1535年）には、岡崎松平家の当主、松平清康によって再興され、多宝塔が建立されました。

桶狭間の戦いと徳川家康

永禄3年（1560年）、桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、松平元康（後の徳川家康）は今川軍から離脱し、大樹寺に逃れました。伝承によれば、寺に囲まれ自害を覚悟した元康に対し、当時の住職である登誉天室が「厭離穢土 欣求浄土」の教えを説き、思いとどまらせたと言われています。その後、元康は岡崎城に入城し、独立への第一歩を踏み出しました。

この逸話から、家康は以後、戦陣には必ず「厭離穢土欣求浄土」の旗印を使ったとされることもありますが、確実な記録は残っていません。

江戸期以降

慶長7年（1602年）、大樹寺は勅願寺となりました。慶長17年（1612年）には、徳川家康自身も参拝に訪れ、法要を営みました。元和元年（1615年）には、家康の命により墓所の再興が行われました。

元和2年（1616年）、家康が死去すると、遺言に従い位牌が収められ、以降、歴代将軍の等身大位牌が大樹寺に安置されるようになりました。元和3年（1617年）には、家康の祖先八代を祀るための墓の修復再建が行われました。

寛永13年（1636年）、将軍家光は本堂以下の堂舎の新築を命じ、寛永18年（1641年）に「寛永の大造営」と呼ばれる大規模な工事が完了しました。正保元年（1644年）には、東照宮の造営が計画されましたが、最終的に大樹寺内ではなく滝山寺に造営されました。

安政2年の火災

安政2年（1855年）、大樹寺は火災により、本堂、大方丈などの主要な建物が焼失しました。しかし、家康の廟所や多宝塔などは焼失を免れました。その後、幕府の支援により再建工事が行われ、安政4年（1857年）に再建されました。この再建工事では、建物の規模が縮小されたものの、本尊は京都の泉涌寺からもたらされ、障壁画は冷泉為恭によって描かれました。

幕末の動乱期において、火災がこの時期以降に起こっていたら再建は困難だったとも言われています。

慶応元年（1865年）には、将軍徳川家茂が参拝に訪れました。

明治以後

明治時代に入ると、1873年（明治6年）には境内に広元学校（現・岡崎市立大樹寺小学校）が開設されました。1969年（昭和44年）には、松平八代墓の隣に徳川家康の墓碑が建てられました。1973年（昭和48年）から1975年（昭和50年）にかけて三門の修復が行われ、2000年（平成12年）には韓国の仏国寺と友好提携を結びました。

2023年（令和5年）には、NHK大河ドラマ『どうする家康』の放映開始に伴い、観光客が急増し、駐車場が有料化されました。

歴代将軍位牌

大樹寺に安置されている歴代将軍の位牌は、将軍の身長と同じ高さであると言われています。ただし、15代将軍慶喜の位牌は、存命中に将軍職を辞したため、大樹寺には安置されていません。位牌の高さは、家康が159.0 cm、秀忠が160.0 cm、家光が157.0 cmなど、それぞれ異なっています。

文化財

大樹寺は、数々の文化財を所蔵しています。重要文化財としては、多宝塔、絹本墨画淡彩如意輪観音図、大方丈障壁画、紙本著色子日図、紙本著色琴棋書画図、紙本著色茸狩図などが指定されています。また、愛知県指定有形文化財としては、大樹寺伽藍、大方丈、総門、三門、旧裏一の門・裏二の門、鐘楼、絹本著色山越阿弥陀如来像、絹本著色当麻曼陀羅絵、木造阿弥陀如来坐像などが指定されています。

その他、岡崎市指定文化財や天然記念物なども数多く存在します。

ビスタライン

大樹寺三門前から総門を経て、岡崎城天守を望むことができる直線は「ビスタライン」と呼ばれています。この景観は、徳川家光が「祖父生誕の地を望めるように」との想いから伽藍を配置したことによって生まれました。現在でも、高層建築の制限などにより、この眺望は維持されています。

ギャラリー

[画像]　大樹寺の画像（別途挿入ください）

交通アクセス

名鉄名古屋本線 東岡崎駅から名鉄バス「大樹寺」バス停下車、徒歩約8分。
愛知環状鉄道・愛知環状鉄道線 大門駅から徒歩約15分。



大樹寺は、その歴史と文化、そして美しい景観を通じて、訪れる人々に深い感動を与える場所です。徳川家の歴史を語る上で欠かせないこの寺院は、日本の歴史と文化を深く理解するための重要な鍵となるでしょう。

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