大江挙周

大江挙周（おおえのたかちか）は、平安時代中期に活躍した貴族であり、卓越した学識を持つ人物でした。父は同じく文章道の大家であった大江匡衡で、その影響を受け、幼少の頃から学問に励みました。官位は正四位下・式部大輔にまで昇り、その才能は朝廷でも高く評価されました。

学問の道と官歴

挙周は、父・匡衡と同様に紀伝道（文章道）を専門とし、文章得業生としてその才能を開花させました。長保3年（1001年）には対策（大学寮の試験）に及第し、その答案は『本朝文粋』にも収録されています。寛弘3年（1006年）には、一条天皇の東三条殿行幸の際に父と共に文章を献上し、その功績が認められて六位蔵人に任じられました。

その後、寛弘5年（1008年）頃には巡爵により従五位下・筑前権守に叙任され、三条朝では春宮・敦成親王（後の後一条天皇）の東宮学士に任ぜられました。長和3年（1014年）には、敦成親王の御読書始において御博士役を務めるなど、その学才は朝廷内で高く評価されました。長和5年（1016年）には敦成親王の践祚に伴い従四位下に叙せられ、後一条朝では侍読や文章博士を歴任し、最終的には正四位下・式部権大輔にまで昇進しました。地方官としては、和泉守、三河守、丹後守を兼帯しました。

母・赤染衛門との逸話

挙周の人生を語る上で欠かせないのが、母・赤染衛門との深い愛情を示す逸話です。挙周の出世が伸び悩んでいた時、母である赤染衛門は、藤原道長の妻である倫子に歌を贈りました。

おもへきみかしらの雪をうちはらひ　消えぬさきにといそぐ心を

この歌は、頭に降り積もる雪を払うように、老いていく我が身が消えてしまう前に息子の出世を願う母の心情を詠んだものでした。この歌に心を動かされた道長の計らいにより、挙周は和泉国国司に任じられます。しかし、挙周は国司赴任中に病に倒れてしまい、重篤な状態に陥ってしまいます。

息子を心配した赤染衛門は、京から急いで駆けつけ、住吉神社で息子の治癒を祈願しました。その際、御幣に添えられた歌は、

代はらむと思ふ命は惜しからで　さても別れむほどぞ悲し

というものでした。我が命と引き換えにしても息子を助けたいという、母の切実な願いが込められた歌でした。その後、挙周の病は回復に向かいましたが、このことを知った挙周は、今度は自分が住吉神社に向かい、「母が死んでは生きていけないので、母が捧げた命を自分の命で補ってほしい」と祈ったとされています。この感動的な逸話は、『赤染衛門集』や『今昔物語集』などに収録され、広く知られることとなりました。

晩年

挙周は、学者としての生涯を全うし、永承元年（1046年）に亡くなりました。臨終の際には、自らの学者としての生涯に満足していると語り、絶命の際には瑞相が現れたと伝えられています（『続本朝往生伝』）。

官歴の詳細

長保2年（1000年） 12月2日：見文章得業生
長保3年（1001年） 9月26日：対策及第。12月25日：見播磨少掾文章得業生正六位上
寛弘3年（1006年） 日付不詳：式部少丞。3月4日：六位蔵人
寛弘5年（1008年） 9月11日：見筑前権守従五位下
寛弘8年（1011年） 8月2日：見東宮学士（春宮・敦成親王）
長和5年（1016年） 2月8日：還昇（四位）
寛仁3年（1019年） 2月6日：見和泉守
万寿3年（1026年） 10月9日：見三河守
長元元年（1028年） 7月19日：見木工頭
長元4年（1031年） 2月10日：見文章博士。11月2日：見式部権大輔
長元8年（1035年） 10月4日：見式部権大輔文章博士木工頭伊予介正四位下
長元9年（1036年） 日付不詳：兼丹後守
永承元年（1046年） 6月：卒去

系譜

父：大江匡衡
母：赤染衛門 - 赤染時用の娘
妻：高階明順の娘
男子：大江成衡（?-?）
生母不明の子女
* 男子：大江能高

大江挙周は、その学才と人柄、そして母との深い絆を通して、平安時代の人々に大きな感銘を与えた人物でした。

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