大湊 (伊勢市)

大湊の歴史と変遷

大湊は、三重県伊勢市に位置する歴史ある港町です。宮川の河口付近に広がる三角州に形成され、その地理的な特性から、中世から近世にかけて伊勢湾における商業と海運の中心地として繁栄しました。現在の行政区分では、伊勢市大湊町として知られています。

古代から中世

大湊は、伊勢神宮の神郡の一部として、古くから開けていました。特に、神宮直属の塩田が存在したことから、鎌倉時代以前より、東海道や東国各地の荘園からの年貢や、神宮への奉納品、生活物資の集積地として、重要な役割を果たしていました。また、東国から神宮へ参拝する人々の玄関口としても栄え、神宮と東国を結ぶ中継地、伊勢の物流拠点として、その名を馳せました。

南北朝時代

南北朝時代には、伊勢神宮と南朝、そして北畠氏との連携が深まりました。1338年には、義良親王（後の後村上天皇）を奉じた北畠親房や結城宗広らが、大湊から東国へ船出しましたが、途中で難破し、親王らは伊勢国へ引き返しました。しかし、親房の船だけは常陸国に漂着したと伝えられています。

室町時代から戦国時代

室町時代には、大湊は北畠氏の支配下に置かれましたが、上納金と引き換えに、24名の会合衆による自治が認められました。1498年には、明応地震による津波で大きな被害を受けましたが、その後の地域紛争の際には、献金によって和解するなど、地域としての結束も強かったようです。1565年には、1ヶ月の間に119隻の船が入港し、そこから入港税が徴収されていた記録が残っており、当時の大湊が活気に満ち溢れていた様子がうかがえます。大湊は、北畠氏だけでなく、織田氏、徳川氏、今川氏、北条氏などの有力戦国大名とも結びつきを強め、堺や博多と並ぶ、日本を代表する商業都市の一つとして発展しました。

安土桃山時代から江戸時代

安土桃山時代には、織田信長が北畠具教を討ち、伊勢湾は織田氏の支配下に入りました。大湊も抵抗を続けましたが、最終的に織田政権に屈し、九鬼嘉隆の影響下に入りました。江戸時代には、廻船問屋が自治を司り、船宿も発達しましたが、河口の土砂堆積により港湾機能は衰え、鳥羽の台頭とともに、次第に衰退していきました。しかし、造船の町としての歴史は長く、関連して鉄工業も発達していました。

近代から現代

近代に入り、多くの造船工を必要としたことから、1896年には大湊工業補習学校が設立され、後の三重県立伊勢工業高等学校へと繋がります。日本の造船業は高度経済成長期まで繁栄しましたが、オイルショック期からは陰りが見え始めました。倒産や廃業、業態転換などが相次ぎ、大湊の造船産業も衰退しました。伊勢工業高校の造船科も2005年に廃止となりました。

大湊町の行政と変遷

1889年の町村制施行により、大湊は度会郡大湊町として単独で町制を敷きました。しかし、1943年には、宮本村、浜郷村とともに宇治山田市に編入され、1955年の市名改称により、伊勢市の一部となりました。

現在、大湊は本土から切り離されており、2つの橋で結ばれています。三角州とその対岸の徳田新田を合わせて大湊町を形成しており、観光地として有名ではありませんが、古い家屋や町並みが残っています。また、港にはヨットハーバーが設置されているものの、一般の船舶は宇治山田港を利用しています。

大湊の産業と文化

かつて大湊には、伊勢神宮の正殿・社殿用の木材を集積・仕分けする貯木池がありましたが、現在はその跡地に石碑が残るのみです。また、1954年にビキニ環礁での水爆実験で被爆した「第五福竜丸」を改造した造船所も存在しました。

大湊の交通と施設

大湊には、三重県道748号大湊宮町停車場線が通り、路線バスも運行しています。町内には、伊勢市立大湊小学校、大湊地区コミュニティセンター、伊勢警察署大湊警察官駐在所、伊勢大湊郵便局などがあります。また、菊川鉄工所や内田造船、南平造船所、市川シップヤードなどの造船関連の施設も点在しています。

大湊出身の著名人

大湊出身の人物としては、パラオ共和国の初代大統領であるクニオ・ナカムラの父、中村善七や、大日本帝国海軍の技術大佐であった松本喜太郎、コメディアン植木等の父である植木徹之助（後の植木徹誠）などがいます。


大湊は、歴史と文化が深く根付いた魅力的な町です。かつての繁栄は失われたものの、その歴史と伝統は、今もなおこの地に息づいています。

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