大潮憲司

大潮憲司（おおしお けんじ）

1948年1月4日、福岡県八幡市（現北九州市八幡東区）に生まれた大潮憲司は、時津風部屋に所属した元大相撲力士です。本名は波多野兼二。186cm、143kgの恵まれた体格で、左四つ、寄り、突きを得意とし、最高位は東小結にまで昇り詰めました。

特筆すべきは、その通算出場回数です。1891回という記録は、大相撲史上1位であり、まさに鉄人と言えるでしょう。

引退後は、年寄・式守秀五郎（式秀）を襲名し、1992年から2013年まで式秀部屋の師匠として、多くの力士を育てました。

生い立ちと入門

幼少期は両親の離婚により、下宿屋で祖母に育てられました。中学2年生で身長182.5cm、体重75kgと体格に恵まれ、バスケットボールに打ち込んでいましたが、偶然出場した相撲大会で優勝したことがきっかけで、11代粂川（元前頭・双ッ龍）に勧誘されます。当初、相撲界の厳しさを感じていた大潮は拒否しましたが、祖母のために家を建てたいという思いから入門を決意しました。

入門時の時津風部屋は、12代時津風（元横綱・双葉山）が師匠を務めており、その厳格な雰囲気に大潮は緊張したといいます。部屋には70～80人もの力士が所属しており、稽古時間を確保するために午前4時から稽古場に下りていたそうです。中学在学中は、稽古後に女中に朝食を用意してもらい、学校へ通いました。同級生には後の旭國もおり、相撲好きな旭國に稽古をせがまれたこともありました。

入門当初は、付き人を務めた北葉山の指導を受け、相撲の基本を徹底的に叩き込まれました。北葉山は体の使い方や足の運びなど、細部にわたる指導を行い、大潮の土台を築きました。

力士として

当初、道場のホープと呼ばれた大潮ですが、出世は遅く、幕下上位で苦戦が続きました。その優しすぎる性格が力士としての欠点とされ、相撲大会で水たまりを気にして中止を申し出たというエピソードもあります。

しかし、祖母と師匠の死をきっかけに奮起し、1969年5月場所から大潮の四股名を名乗るようになりました。12代時津風の次代である14代時津風（元大関・豊山）の指導も厳しく、わがままな面があった大潮は、人の苦労を知るように諭されました。

1969年11月場所で十両に昇進、1971年9月場所には新入幕を果たしました。

大潮の取り口は、立合いから激しく当たり、左を差して寄るというものでしたが、腰高のため逆転されることもありました。幕内と十両を往復する時期もありましたが、1976年3月場所からは幕内に定着、1977年11月場所には技能賞を獲得。翌1978年1月場所には自己最高位の東小結に昇進しました。

足の負傷で幕下に落ちた時期もありましたが、節制と努力で再び幕内へ返り咲きました。妻の叱咤激励もあり、禁酒・禁煙を達成。以降、三役には返り咲けなかったものの、横綱・北の湖など上位陣との対戦で金星を獲得するなど、実力を発揮しました。

1988年1月場所後、40歳で引退。通算出場1891回、十両在位55場所、幕内昇進13回は、いずれも歴代1位の記録です。

古武士を思わせる風貌と、悲壮感すら漂う立合いは、多くのファンを魅了しました。

引退後

引退後は、年寄・錣山を経て式守秀五郎（式秀）を襲名。1992年に式秀部屋を創設し、後進の育成に尽力しました。地元の福岡県北九州市に宿舎を構え、福祉施設への慰問も行うなど、社会貢献にも熱心でした。

式秀部屋では、三綱領なる道場訓を提唱し、弟子たちを指導しました。長男も式秀部屋に入門しましたが、関取になったのは千昇のみでした。

2013年1月に日本相撲協会を停年退職。式秀部屋は、一門外の元前頭・北桜が継承しました。

停年後は東京都八王子市で暮らしていましたが、2024年5月25日に逝去しました。

主な記録

通算成績：964勝927敗47休 勝率.510
幕内成績：335勝413敗17休 勝率.448
十両成績：436勝359敗30休 勝率.548
通算出場：1891番（史上1位）
幕内在位：51場所
十両在位：55場所（史上1位タイ）
三役在位：1場所（小結1場所）
三賞：2回（技能賞1回、敢闘賞1回）
金星：3個（輪島1個、北の湖2個）
各段優勝：十両優勝3回


大潮憲司は、その卓越した記録と、ひたむきな姿勢で、大相撲史に名を刻んだ偉大な力士でした。

もう一度検索