大西暢夫

大西暢夫：社会の深淵を見つめる写真家・映画監督

大西暢夫（おおにしのぶお、1968年 6月12日 - ）は、岐阜県揖斐郡池田町出身の写真家・映画監督です。彼の作品は、社会の周縁に生きる人々の姿や、忘れ去られようとしている文化、そして自然と人間の関係を深く掘り下げています。特に、ダム建設によって水没した村々や、精神科閉鎖病棟での人々の生活を記録した作品は、社会に大きな衝撃を与え、多くの人々に感動と問いを投げかけてきました。

生い立ちと写真家への道

大西は、濃尾平野の端、木曾三川の揖斐川の中流域で育ちました。父親が顕微鏡写真の現像をしていたことから、幼い頃から写真に触れる機会がありました。中学生の時には、映画『ふるさと』を観てダム問題に関心を抱き、東京綜合写真専門学校卒業後、写真家の本橋成一に師事しました。本橋の指導のもと、大西は写真家としての基礎を築き、社会的なテーマを扱うことに目覚めていきます。

チェルノブイリ、水俣、そしてダム

写真家としてのキャリア初期には、チェルノブイリ原発事故の影響で立ち入り禁止となったベラルーシの村で、放射能汚染に苦しみながらも生活を続ける人々の姿を撮影しました。また、『水俣・東京展』では、水俣病患者の遺影の現像を担当し、水俣病問題への関心を深めました。そして、修行中にアマチュア写真家の増山たづ子と出会ったことが、大西の後の活動に大きな影響を与えます。増山は、ダム建設で水没する故郷の徳山村を記録しており、大西は1992年からオフロードバイクで村に通い、最後まで村に残り続けた人々の生活を撮影しました。この経験から、ダム問題は、大西のライフワークの一つとなります。

精神科 閉鎖病棟、職人、そしてアール・ブリュット

2001年からは、精神保健医療福祉の専門誌「精神科看護」の連載で、精神科閉鎖病棟を20年間撮影し続けました。また、新聞や地方自治関連の総合情報誌「ガバナンス」の連載では、伝統産業の職人や辺境の地での営み、農家など、日本各地の市井の人々を撮影し、その生活の豊かさを伝えています。さらに、アール・ブリュット作家の撮影と支援も継続的に行い、2023年にはボーダレス・アートミュージアム NO-MAの館長に就任しました。大西は、障害を持つ人々の表現活動を支援し、社会の中で埋もれがちな才能を発掘することにも力を注いでいます。

東日本大震災と地域への貢献

2011年の東日本大震災発生後は、被災者の撮影と支援を継続しています。被災地報告会の参加費や自費出版の小冊子の売り上げを支援金にするなど、写真家としてできる支援を積極的に行っています。また、地元岐阜県では、みんなの森ぎふメディアコスモスや未来会館などの公益施設でイベントを開催したり、情報科学芸術大学院大学で教鞭を執ったりするなど、地域振興や教育にも貢献しています。2019年には、障害のある作家の支援活動の功績で、令和元年度岐阜県芸術文化顕彰を受賞しました。

写真家としての活動と作品

大西は1998年にフリーカメラマンとして独立し、2010年に東京から故郷の岐阜県揖斐郡池田町に拠点を移しました。彼の作品は、写真集や絵本として出版されており、また、ドキュメンタリー映画も制作しています。主な受賞作として、ドキュメンタリー映画『水になった村』が第16回EARTH VISION 地球環境映像祭最優秀賞を、写真絵本『おばあちゃんは木になった』が第8回日本絵本賞を受賞しています。著書には、『ホハレ峠ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡』があり、第36回農業ジャーナリスト賞を受賞しています。

大西暢夫のまなざし

大西暢夫の作品は、単なる記録写真や映像にとどまらず、そこに生きる人々の感情や物語、そして社会の構造そのものを映し出しています。彼は、社会の隅々にまで目を凝らし、そこに確かに存在する人々の営みを丁寧に捉え、私たちに問いかけます。大西の作品は、私たちが普段見過ごしてしまうような、人間の尊厳や社会の不条理を浮き彫りにし、私たちの心に深く刻まれます。彼の活動は、写真や映像を通して社会をより良く変えていく力を持っていると言えるでしょう。

主な作品

ドキュメンタリー映画
『水になった村』(2007年)
『家族の軌跡 3.11の記憶から』(2015年)
『オキナワへいこう』(2018年)
写真絵本
『おばあちゃんは木になった』（2002年）
『ぶたにく』（2010年）
著書
『ホハレ峠ダムに沈んだ徳山村百年の軌跡』（2020年）
『ひとりひとりの人〜僕が撮った精神科病棟』（2004年）
『津波の夜に3.11の記憶』（2013年）
『僕の村の宝物ダムに沈む徳山村山村生活記』（1998年）
『水になった村ダムに沈む村に生き続けたジジババたちの物語』（2008年）
『アウトサイダー・アートの作家たち』（2010年）

新聞・雑誌連載

「毎日新聞」
「ガバナンス」（ぎょうせい）
「伊吹山麓の小冊子ふもと」（風林舎）
「うかたま」（農文協）
「通販生活」（カタログハウス）
「母の友」（福音館書店）
「精神科看護」（精神看護出版）
「教育評論」（日本教職員組合）