大谷磨崖仏

大谷磨崖仏：歴史と自然が織りなす宇都宮の至宝

栃木県宇都宮市大谷町に位置する大谷磨崖仏は、国の特別史跡および重要文化財に指定されている、歴史的価値の高い石窟仏群です。御止山と呼ばれる凝灰岩の山腹に造られた洞窟の壁面に、10体の仏像が4つの区画に分けられて刻まれています。これらの仏像は、大谷石と呼ばれるこの地域特有の凝灰岩を素材としており、その独特の風合いと、歴史の重みを感じさせる存在感は他に類を見ません。

四つの区画と十体の仏像

大谷磨崖仏を構成する仏像は、大きく分けて以下の4つの区画に配置されています。

第一区：千手観音立像
- この区画の中心には、大谷寺の本尊として祀られている千手観音立像が鎮座しています。高さ3.89メートルにも及ぶ堂々とした姿は、見る者の心を圧倒します。42本の腕を持つその姿は、凝灰岩を基盤に、細部は塑土によって精緻に表現されています。かつては金箔や彩色が施され、さらに華麗なものであったと推測されています。

第二区：伝釈迦三尊像
- 釈迦如来を中央に、その左右に文殊菩薩と普賢菩薩を配した三尊像です。しかし、右脇侍像は合掌する僧形像であり、図像学的には普賢菩薩像とは考えられておらず、本来の名称は不明です。釈迦如来像の高さは3.54メートルあります。

第三区：伝薬師三尊像
- 薬師如来を中央に、日光菩薩と月光菩薩を配した三尊像です。高さ1.15メートルの薬師如来像を中心に、風化による損傷が目立つものの、その存在感は失われていません。

第四区：伝阿弥陀三尊像
- 阿弥陀如来を中央に、観音菩薩と勢至菩薩を配した三尊像です。第二区と同様に、右脇侍像は合掌する僧形像であり、本来の名称は不明です。阿弥陀如来像の高さは2.66メートルです。

これらの仏像以外にも、壁面にはいくつかの座位の仏像や、粘土を張り付けた立像などが確認されており、大谷磨崖仏の規模と歴史的意義を改めて認識させられます。

造立時期と保存状態

大谷磨崖仏の造立時期については、確たる史料がなく、明確には分かっていません。しかし、千手観音像と伝薬師三尊像が最も古く、次に伝釈迦三尊像、最後に伝阿弥陀三尊像が造られたと推定され、平安時代中期から鎌倉時代にかけての制作と考えられています。

かつては金箔や彩色で装飾されていたと推測され、時間の経過と共に漆や粘土が剥離した部分も多いですが、全体的には良好な保存状態を保っています。その姿から、当時の信仰の深さと技術力の高さを垣間見ることができます。

文化財としての指定とアクセス

大谷磨崖仏は、1926年に国の史跡に、1954年には特別史跡に指定されました。さらに1961年には、10体の仏像を「大谷磨崖仏10躯」として国の重要文化財（彫刻）にも指定されています。

アクセスは、JR宇都宮駅から関東自動車のバスで約30分、「大谷観音前」バス停下車、徒歩2分です。車の場合は、宇都宮環状道路から大谷街道を経由して約10分です。

大谷磨崖仏は、歴史的価値の高い仏像群であると同時に、大谷石の採掘場跡という独特の環境に位置する、貴重な文化遺産です。訪れる際には、その歴史と自然の織りなす景観に思いを馳せてみてください。

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