大谷石

大谷石：歴史と文化、そして未来を刻む石材

栃木県宇都宮市北西部の大谷町周辺で採掘される大谷石は、軽石凝灰岩の一種。その柔らかな性質と加工の容易さから、古くから建築資材として重宝されてきました。現在でも、蔵の壁面や伝統的な建造物などでその姿を見ることができます。

大谷石の成り立ちと特徴

大谷石は、新生代第三紀中新世前期、火山噴火による火山灰や砂礫が海中に堆積し、凝固して形成されました。主成分は浮石質ガラス、斜長石、石英などで、少量の黒雲母や角閃石なども含まれています。珪酸、酸化鉄、アルミニウム、マンガン、石灰、マグネシウム、カリウム、ナトリウムといった成分も含有しています。

大谷石の分布域は東西4キロメートル、南北6キロメートルに及び、推定埋蔵量は約6億トンにも達します。かつては120ヶ所以上の採石場が稼働していましたが、2009年時点では12ヶ所となっています。採掘方法は、露天掘りや地下数十メートルから100メートルを超える深さの坑内掘りが行われています。

大谷石の大きな特徴は、その軽さと柔らかさ、そして耐火性と防湿性に優れている点です。そのため、住宅の壁や塀、蔵、倉庫、石垣、土止めなど、幅広い用途に使用されてきました。耐火性と蓄熱性から、パンやピザを焼く窯の材料としても活用されています。また、岩盤工学の分野では、実験材料としても用いられています。

多様な用途と歴史的建造物

縄文時代の遺跡において炉石として使用されていた痕跡も確認されており、古くから人々の生活に密着した石材であることがわかります。宇都宮周辺では、石蔵、駅舎、石垣、階段、門柱など、多くの建造物に大谷石が使用されています。

代表的な建造物としては、1932年建設のカトリック松が峰教会（国内最大級の大谷石を用いたロマネスク・リヴァイヴァル建築）、宇都宮駅前に設置された餃子像などが挙げられます。下野国分寺や宇都宮城の築造にも使用され、愛知県名古屋市の川原田家住宅の擁壁にも見られます。

特に、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが帝国ホテル旧本館（東京）に大谷石を採用したことで、その独特の風合いが世界的に知られるようになりました。大谷石の表面に見られる茶色の斑点は「ミソ」と呼ばれ、含水量の多い沸石やモンモリロン石などの粘土鉱物からなる蛋白石鉄塩鉱物を含むとされています。ミソの少ない細目が、高級品として扱われます。

近年の大谷石

風化しやすいという欠点から、戦後はコンクリートに押されて使用量は減少しましたが、近年では、厚さ2cm程度の薄板加工技術の開発や、その吸湿性、消臭性、音響効果といった新たな特性が注目されています。そのため、住宅や店舗の内装、音楽ホールなどへの利用も広がりを見せています。

地下空洞の活用と課題

採石場跡に残された広大な地下空洞は、ワインや日本酒、納豆などの貯蔵・熟成、観光・学習施設（大谷資料館）、映画撮影、パーティ、展示会など、多様な用途に活用されています。

一方で、古い採石場跡の陥没事故も発生しており、1989年の大規模な陥没事故は、採石業者の撤退や観光客の減少につながるなど、大きな影響を与えました。

大谷石の採掘と運搬

大谷石の採掘方法は、地表から掘り進む「平場掘り」と、立坑から横へ掘り進む「垣根掘り」があります。機械化以前は手作業で行われ、5寸×1尺×3尺の石を1つ採掘するのに4000回ものつるはしを振る必要があったと言われています。運搬も、人力による背負い運びから、馬車、人車、船、そして現在のトラックや貨物列車へと変化してきました。

エピソード：帝国ホテルと関東大震災

フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル旧本館には、大谷石が大量に使用されました。関東大震災において、この建物が比較的無傷であったというエピソードは有名ですが、実際には震害を受けていたという調査結果もあります。

まとめ

大谷石は、その歴史と特性、そして近年見直されている多様な機能性により、現代社会においても重要な役割を担う石材です。その歴史を理解し、適切な活用を進めていくことが重要です。

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