大間知篤三

大間知 篤三（おおまち とくぞう）

日本の民俗学者、大間知篤三は、1900年（明治33年）4月9日に富山県富山市愛宕町で生を受けました。旧家の子として育ち、家業は呉服店、父は地元の富山橋北銀行頭取を務めるなど、比較的恵まれた家庭環境で成長しました。

富山中学校、第四高等学校を経て、1927年には東京帝国大学文学部独文学科を卒業しました。帝大在学中は学生運動組織である新人会に所属し、幹事長として活動するなど、社会運動に関心を寄せました。大学卒業後は労働農民党の書記を務めた後、日本共産党に入党するなど、マルクス主義に基づく政治活動へと傾倒していきました。兵役を経て、1928年（昭和3年）に発生した三・一五事件に連座し、検挙されて三年間にわたり収監されました。この投獄経験は、その後の彼の人生に大きな転換点をもたらしました。

1931年に出所すると、ジャーナリスト大宅壮一らが結成した翻訳組織に加わるなど、言論・文化活動に携わりました。この頃、政治運動の傍ら、雑誌『政治批判』の創刊にも関わったとされています。そして1933年からは、日本民俗学の礎を築いた柳田國男に師事し、民俗学研究へと本格的に方向転換しました。柳田の薫陶を受け、彼は民間の伝承や習俗への関心を深め、柳田らとともに民間伝承の会（現在の日本民俗学会）の創立にも尽力しました。

1935年には、思想犯の保護・更生を目指した皆川治広による大孝塾研究所（後に国民思想研究所と改称）の研究員となりました。かつて兵役で上官だった辻政信の推薦もあり、1939年には満州へ渡り、満州建国大学の講師、後に教授を務めました。戦時下における満州での教育・研究活動は、彼の視野を広げる経験となりました。

終戦後の1946年に満州から日本へ帰国。戦後の混乱期を経て、1948年には民俗学研究所の嘱託となり、さらに1950年には代議員、1951年には理事に就任するなど、研究所の運営に携わりました。しかし、1954年に結核を患い、同研究所を退職せざるを得なくなりました。病と闘いながらも、民俗学の研究は晩年まで続けられ、その生涯を学問に捧げました。1970年（昭和45年）2月26日、70歳を前にして永眠しました。

大間知篤三の研究の中心は、特に家族や婚姻に関する習俗にありました。社会構造と民俗の関係性を深く探求し、多くの論文や著作を発表しました。その幅広い業績は、後に全6巻の著作集としてまとめられています。

主な著書、共著、編纂、翻訳は以下の通りです。

『婚姻習俗語彙』（柳田國男共著、民間伝承の会、1937年）
『日本人物語 第4 愛情の周辺』（編、毎日新聞社、1961年）
『八丈島』（金山正好、坪井洋文共著、角川文庫、1966年）
『民俗の事典』（川端豊彦、瀬川清子、三谷栄一、大森志郎、大島建彦共編、岩崎美術社、1972年）

翻訳書：

グラトコフ『セメント』（春陽堂 世界名作文庫、1932年）
ハウプトマン『フローリアン・ガイエル』（春陽堂・世界名作文庫、1933年）
* シロコゴロフ『満洲族の社会組織』（戸田茂喜共訳、刀江書院、1967年）

このように、大間知篤三は、社会運動から民俗学へと転身し、柳田國男の門下で家族・婚姻習俗研究において重要な業績を残した、波乱に富んだ生涯を送った民俗学者です。

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