天璋院篤姫 (小説)

天璋院篤姫 (宮尾登美子)

宮尾登美子氏が著した長編歴史小説。日本の歴史が大きく揺れ動いた幕末から明治維新期を舞台に、薩摩藩島津家から江戸幕府第13代将軍徳川家定のもとへ嫁ぎ、若くして夫と死別しながらも徳川宗家のためにその生涯を捧げた女性、天璋院の壮絶な人生を描き出す。

本作は、1983年2月25日から1984年5月1日にかけて日本経済新聞の夕刊で連載された後、1984年9月6日に講談社から上下巻として刊行された。

あらすじ

物語は、1853年（嘉永6年）8月21日、萩の花が咲き誇る頃、薩摩・鶴丸城を出て江戸へ向かう一つの行列から始まる。その行列に護られた駕籠の中にいたのが、後の天璋院となる薩摩藩主島津斉彬の養女、篤子（幼名：島津敬子）であった。

篤子は元々島津家の分家筋の姫であったが、その聡明さと器量を見込まれ、藩主斉彬の養女となる。斉彬から密命を受けた篤子は、近衛篤子と名を変え、幕府の戦略的な意図のもと、第13代将軍徳川家定の正室として江戸城大奥に入る。病弱な家定とは形式的な夫婦関係に留まりながらも、篤子は将軍正室としての責務を果たそうとする。幕府内の複雑な権力闘争や困難に直面する中で、篤子は自らが担う「使命」の裏に隠された陰謀の真実に気づかされていく。

家定が結婚後わずか2年足らずで病没すると、篤子は若くして未亡人となり、「天璋院」の称を受ける。大奥の最高位に立ち、第14代将軍となった徳川家茂の義母として、また家茂の正室として京都から迎えられた皇女和宮親子内親王の姑として、天璋院は揺れ動く幕府のために尽力する。尊王攘夷の時勢の中で徳川幕府が衰退の一途をたどる中、彼女は女としての個人的な幸せとは無縁のまま、大奥の秩序を守り、徳川家の権威を保とうと奔走する。明治維新を経て江戸城が無血開城された後も、天璋院は徳川宗家の存続と再建のために力を尽くし、その波乱に満ちた生涯を閉じるまで徳川家を見守り続けた。

書誌情報

本作は様々な形態で刊行されている。

単行本
講談社より1984年9月6日に上下巻で刊行された。
天璋院篤姫（上） ISBN 978-4-06-200560-9
天璋院篤姫（下） ISBN 978-4-06-200561-6
2007年9月8日には新装版が刊行されている。
新装版 天璋院篤姫 （上） ISBN 978-4-06-214217-5
新装版 天璋院篤姫 （下） ISBN 978-4-06-214218-2

文庫本
講談社文庫より1987年11月9日に上下巻で刊行された。
天璋院篤姫（上） ISBN 978-4-06-184071-3
天璋院篤姫（下） ISBN 978-4-06-184072-0
2007年3月15日には新装版が刊行されている。
新装版 天璋院篤姫（上） ISBN 978-4-06-275684-6
新装版 天璋院篤姫（下） ISBN 978-4-06-275685-3

関連書籍
本作に関する研究や解説を含む書籍も刊行されている。例えば、鹿児島純心女子大学国際文化研究センター編『新薩摩学6 天璋院篤姫』（2008年9月、南方新社）には、古閑章氏による「宮尾登美子『天璋院篤姫』を読む」や、東川隆太郎氏による「小説『天璋院篤姫』を楽しむための文学散歩」などが収録されている。

映像化・舞台化

小説『天璋院篤姫』は、発表以来、複数のメディアで映像化・舞台化されている。

テレビドラマ
1985年1月3日には、テレビ朝日系の「新春ドラマスペシャル」として単発特別ドラマが放映された。主演は佐久間良子。脚本は山田信夫、演出は山内和郎が担当した。キャストには佐久間良子のほか、秋吉久美子（和宮）、草笛光子（滝山）、江守徹（徳川慶喜）、中村嘉葎雄（徳川家定）、国広富之（徳川家茂）、田村高廣（島津斉彬）、奈良岡朋子（ナレーション）らが名を連ねた。
2008年には、NHK大河ドラマの第47作として『篤姫』のタイトルで連続ドラマ化された。脚本は田渕久美子、篤姫役は宮崎あおいが演じ、大きな反響を呼んだ。

舞台
1984年10月3日から30日には、東京宝塚劇場での公演として初めて舞台化された。これは「東京宝塚劇場開場50周年/東宝10月特別公演」として上演され、篤姫役を山本富士子が務めた。翌1985年4月には御園座でも上演されている。脚本は堀井康明、演出は臼杵吉春が担当した。出演者には山本富士子のほか、波乃久里子、藤間紫、園佳也子、山本學（徳川家定）、伊藤孝雄（島津斉彬）らが参加した。
2010年2月4日から24日には、明治座で再度の舞台化が行われた。この公演では内山理名が天璋院篤姫を演じた。脚本は長谷川康夫、演出は西川信廣。共演に遠野あすか（皇女和宮）、高橋かおり（滝山）、小林綾子（しの/重野）、国広富之（勝海舟）、今拓哉（徳川家定）、秋野暢子（お幸の方/本寿院）、西岡德馬（島津斉彬）などがいる。
* 2011年7月3日から25日には、博多座で上演された。この時の主演は国仲涼子。脚本は齋藤雅文、演出は金子良次。西郷輝彦（島津斉彬）、宮本真希（皇女和宮）、床嶋佳子（お幸の方）らが出演した。

これらの翻案作品は、小説が描く天璋院の生涯とその魅力を広く伝える役割を果たしている。

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