太子駅

群馬県吾妻郡六合村（現在の吾妻郡中之条町大字太子）に位置していた太子駅は、かつて日本国有鉄道（国鉄）吾妻線（太子支線）の一部として機能していた鉄道駅です。現在はその役目を終え、廃駅となっています。

この駅の歴史は、昭和20年（1945年）に日本鋼管が運営する群馬鉄山のための専用鉄道として産声を上げたことから始まります。長野原駅（現在の長野原草津口駅）との間を結び、主な目的は群馬鉄山で採掘された鉄鉱石を輸送することでした。鉄鉱石は、約8km離れた鉄山から3本の索道（ロープウェイのような設備）を使って太子駅まで運ばれ、そこから列車に積み替えられて京浜地区の製鉄所へ送られていました。

開業当初は専用線でしたが、昭和27年（1952年）10月1日には国鉄に移管され、長野原線の貨物支線として改めて開業しました。これにより、車扱貨物の取り扱いが開始され、同時に旅客営業も始まりました。当初5.8kmとされた長野原駅からの営業キロ程は、昭和29年（1954年）6月21日に改定されています。

営業範囲は時代と共に変化し、昭和36年（1961年）9月1日には旅客、手荷物、小荷物、車扱貨物に対応しましたが、同年10月1日には手荷物と小荷物の配達業務が廃止されました。その後、鉄鉱石輸送の終了に伴い、昭和41年（1966年）10月1日をもって貨物運輸営業が廃止されます。これを受け、昭和42年（1967年）11月1日には営業範囲が旅客のみに縮小され、駅員無配置駅となりました。

駅の末期、長野原線渋川駅～長野原駅間が昭和42年（1967年）に電化された後も、太子駅への支線は非電化のまま取り残されました。長野原駅との間はディーゼルカーが一日わずか5往復するだけの閑散とした運行状況でした。そして、鉱石輸送の廃止に加え、吾妻線が大前方面へ延伸される計画が進む中で、太子駅の使命は終わりを迎えようとしていました。昭和45年（1970年）11月1日をもって鉄道運輸営業は休止され、翌昭和46年（1971年）5月1日に旅客運輸営業と同時に駅自体が正式に廃止されました。

廃止当時、所属路線は吾妻線とされていましたが、これは長野原線の名称が吾妻線に変更された直後のことであり、吾妻線として列車が運行されることはありませんでした。

廃止後の代替交通としては、並行していた国鉄バス花敷線が若干増便されて対応しました。このバス路線も後に廃止され、現在は沿線自治体である中之条町の町営バスが運行を引き継いでいます。

現在、太子駅跡地は地元の取り組みにより公園として整備され、往時を偲ばせる遺構が大切に残されています。車止めや鉱石積み出しに使われたホッパーなどがその代表例です。平成25年（2013年）には駅名標などが再設置され、雰囲気を醸し出しています。当初は子供向け遊具や花壇などが整備されていましたが、多くの遺構が残されていることから、平成26年（2014年）4月には中之条町が本格的な復元を決定しました。

復元事業では、地面に埋もれていた遺構の掘り出しやホッパー跡の修復が行われました。平成28年度（2016年度）にはクラウドファンディングも活用し、約215メートル分のレール敷設や約71メートルのホーム復元が実現しています。木造平屋建ての復元駅舎（約96平方メートル）は平成30年（2018年）に完成し、鉄鉱石を積んだバケットなどが展示され、一般公開されています。同年5月には、大井川鐵道井川線で使用されていた貨車ワフ2・ワフ3が譲渡され、駅跡に搬入されました。これらの復元事業にかかった総事業費は約1億4000万円に上ります。

さらに、長野原線で使用されていた同形の蒸気機関車を展示する計画もあり、JR東日本と交渉が進められています。また、静岡鉄道から譲り受けた貨車「トコ1」や、平成25年（2023年）11月には四国旅客鉄道多度津工場に保存されていたワラ1形貨車のトップナンバーも駐車場前に保存されるなど、車両展示も充実しています。

太子駅の象徴的な遺構である「旧太子駅ホッパー棟」は、その歴史的価値が認められ、令和3年（2021年）2月4日に国の登録有形文化財に登録されました。

太子駅から長野原草津口駅までの廃線跡も、その多くが手つかずの状態で残されています。長野原草津口駅を出てすぐの上路橋桁や、山間部を抜けるトンネルなどが当時の姿を留めています。ただし、一部の隧道は内部崩落のため通行止めとなっています。国道292号と合流・分岐する前後の区間では、地元の生活道路として活用されている箇所も見られますが、隧道は単線規格のため自動車のすれ違いはできません。

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