西燕

西燕（せいえん）

西燕（384年 - 394年）は、五胡十六国時代に鮮卑（せんぴ）慕容（ぼよう）部の慕容泓（ぼよう こう）によって建てられた国です。短命であったため、十六国には数えられていません。しかし、前燕（ぜんえん）の嫡流であり、他の燕朝よりも最も前燕に近い血統の王朝でした。

歴史

建国期

370年11月、前燕が前秦（ぜんしん）の皇帝、苻堅（ふけん）によって滅ぼされると、前燕最後の皇帝、慕容暐（ぼよう い）以下、鮮卑4万戸が長安（ちょうあん）に連行されました。この際、慕容暐の弟である慕容泓と慕容沖（ぼよう ちゅう）も連行され、前秦の北地長史（ほくちちょうし）、平陽郡太守（へいようぐんたいしゅ）として用いられました。

383年、苻堅率いる前秦軍が淝水（ひすい）の戦いで東晋（とうしん）軍に大敗すると、華北（かほく）における前秦の支配力が動揺しました。384年3月、慕容泓は関東（かんとう）に逃れて鮮卑数千人を糾合し、華陰（かよう）に戻って叔父の慕容垂（ぼよう すい）に従い自立しました。一方、慕容沖も河東（かとう）で2万人を集めて決起しましたが、前秦軍に敗れたため慕容泓に合流しました。

この際、慕容泓らは兄の慕容暐を擁立して正式に前燕を再建しようとしましたが、慕容暐は弟らに再建を託して自らは長安に留まったため、慕容泓は4月に燕興（えんこう）と改元して正式に西燕を建国しました。ただし、まだ慕容暐が存命していたため、皇帝は称していませんでした。

暗殺され続ける君主たち

384年6月、西燕を建国した慕容泓は家臣に暗殺され、弟の慕容沖が皇太弟として即位しました。慕容沖は前秦の首都、長安を圧迫し、12月には兄の慕容暐が苻堅により処刑されたため、385年1月に正式に皇帝として即位しました。5月、慕容沖は長安にいた苻堅とその一族を追い出し、関中（かんちゅう）に勢力を確立しようとしました。

ところが、配下の鮮卑の多くは故郷のある東への回帰を求めました。すなわち、東で勢力を確立していた叔父の慕容垂との合流を望んだのですが、慕容沖はこれを拒否したため、386年1月に家臣により暗殺されました。

慕容沖の死後、西燕は大混乱状態となりました。わずか5ヶ月の間に段随（だん ずい）、慕容凱（ぼよう がい）、慕容瑤（ぼよう よう）、慕容忠（ぼよう ちゅう）と4人の皇帝が暗殺されては有力者に擁立されるという事件が続いたのです。この中には、段随や慕容凱のように皇族と血縁関係のない者まで皇帝に擁立されている例もありました（慕容凱に関してはかなりの遠縁だったと思われます）。第5代皇帝の慕容瑤は慕容沖の子、第6代皇帝の慕容忠は慕容泓の子です。

この混乱は386年6月、皇族の遠縁である慕容永（ぼよう えい）が第7代皇帝として即位することで収束しましたが、この混乱期の3月に慕容凱が40万人の鮮卑を率いて長安から逃亡したため、西燕の首都は聞喜（ぶんき）（現在の山西省聞喜県）に遷されました。

滅亡

386年1月、同族の慕容垂が皇帝に即位して後燕（こうえん）が建国されました。慕容永は慕容垂の力を借りるために河東王（かとうおう）と称して従属し、前秦の苻丕（ふひ）を撃退しました。後燕に従属したことで、西燕は一時的に滅亡したことになりますが、9月になると慕容永は長子（ちょうし）（現在の山西省長子県）に遷都して再び皇帝として即位し、自立しました。10月には苻丕の前秦軍と戦い勝利しました。

その後、西燕は後燕と前燕復興の継承権をめぐって争いました。しかし、西燕の皇族から後燕に離反する者も多く、また慕容永が慕容垂の子孫、そして嫡流である慕容泓・慕容沖らの子孫らを殺戮した結果、西燕は孤立状態になり、後燕からは393年から徹底的に攻められるようになりました。慕容永は東晋や北魏（ほくぎ）に援軍を求めるもほとんど無視され、394年8月に慕容永は慕容垂の前に敗死しました。こうして西燕は滅亡し、その勢力は後燕に引き継がれました。

西燕の内情

歴代7名の君主・皇帝が全て非業の最期を遂げたのを見てもわかるように、非常に皇帝権力の弱い国家でした。もともと権力基盤が苻堅により強制移住された関中の鮮卑を主体として建国されていたため、故郷への東帰を希望する配下の意向に皇帝も左右されたのです。しかし、他のどの燕よりも前燕との血縁関係は近く、それが前燕を継承する立場の王朝として存在意義を見出していたのですが、権力基盤を確立できずに遷都を繰り返して最後は同族の後燕と争い自滅する結果となりました。

西燕の君主

済北王（さいほくおう）慕容泓（在位：384年）
威帝（いだい）慕容沖（在位：384年 - 386年）
燕王（えんおう）段随（在位：386年）
燕王慕容凱（在位：386年）
燕帝（えんてい）慕容瑤（在位：386年）
燕帝慕容忠（在位：386年）
河東王慕容永（在位：386年 - 394年）

元号

燕興（384年）
更始（385年 - 386年）
昌平（386年）
建明（386年）
建平（386年）
建武（386年）
中興（386年 - 394年）

参考文献

三崎良章『五胡十六国 中国史上の民族大移動』東方書店、2002年2月。

関連項目

慕容部
前燕
後燕
北燕
南燕

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