威仁親王妃慰子

威仁親王妃慰子：激動の時代を生きた皇族の生涯

威仁親王妃慰子（たけひとしんのうひ やすこ）は、1864年（文久4年）に加賀藩最後の藩主、前田慶寧の四女として金沢城内で誕生しました。母は久徳尋子です。幼少期は活発な少女でしたが、貴婦人としての教育を受け、漢学、書道、絵画などの教養を身につけました。特に書道においては、後に有栖川流書道の奥義を極めるほどの才能を発揮しました。

結婚と海外視察

1876年（明治9年）に有栖川宮威仁親王との縁談が持ち上がりますが、有栖川宮家の後継者問題が解決するまで結婚は見送られました。1878年（明治11年）に威仁親王が有栖川宮家の後継者と認められたことを受け、同年12月に正式に婚約。1880年（明治13年）に結婚の儀を執り行いました。

結婚後、慰子妃は義兄の熾仁親王から有栖川流書道を学び、その腕前は急速に上達しました。また、和歌や英仏会話にも取り組み、流暢な会話を身につけるなど、多才な一面を見せました。1885年（明治18年）には第一女子、績子女王を出産しますが、翌年、脳水腫で夭折。1887年（明治20年）には第一男子、栽仁王を出産しますが、こちらも20歳で早世します。

1889年（明治22年）、威仁親王の海外軍事視察に同行を強く希望。当初、明治天皇は女性の海外渡航に難色を示しましたが、義兄である熾仁親王の尽力と、宮内省の費用負担がないことを条件に許可を得ました。慰子妃は、兄である前田利嗣侯爵夫妻を同伴させ、費用を全て前田侯爵家が負担するという異例の形で、欧州各国を訪問。イタリアではマルゲリータ王妃の歓迎を受け、その聡明さを称えられました。この視察で、各国の王室の活動や子女教育、社会事業などを熱心に視察し、見識を深めました。

晩年と有栖川宮家の断絶

1891年（明治24年）には第二女子、實枝子女王を出産。しかし、1908年（明治41年）には愛息である栽仁王を喪い、深い悲しみに暮れます。同年に實枝子女王が徳川慶久公爵に降嫁。慰子妃は萬事に心を尽くしますが、その際には「先方には先方の家風がある」として、侍女を一人も同行させなかったという逸話が残されています。また、自らは参列を見合わせ、自動車で九段下まで赴き、婚儀の様子を見守ったと伝えられています。

1913年（大正2年）には夫である威仁親王が逝去。その後、大正天皇の第三皇子、光宮宣仁親王（後の高松宮宣仁親王）が祭祀を継承することが決まりました。晩年は病に苦しみ、1923年（大正12年）に湯河原で療養生活を送るも、同年6月30日に薨去。彼女の死をもって有栖川宮家は断絶しました。

しかし、慰子妃の血筋は、娘である實枝子女王、孫娘である喜久子妃へと受け継がれ、有栖川流書道は、常陸宮妃華子や秋篠宮文仁親王へと伝承されました。その生涯は、激動の時代を生き抜いた皇族女性の姿を今に伝えています。

子女

績子女王（夭折）
栽仁王（早世）
實枝子女王（徳川慶久公爵夫人）

栄典

1888年（明治21年）11月1日 - 勲一等宝冠章
1889年（明治22年）11月29日 - 大日本帝国憲法発布記念章
1906年（明治39年）4月1日 - 明治三十七八年従軍記章

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