子癇

子癇：妊娠高血圧症候群に伴う重篤な疾患

子癇は、妊娠中または産後間もない女性において、異常な高血圧と同時に痙攣や意識喪失、視野障害といった症状が現れる、生命を脅かす可能性のある重篤な疾患です。分娩前、分娩中、産後いずれの時期にも発症する可能性があり、迅速な診断と治療が不可欠です。

子癇の原因

子癇の本質は、高血圧によって脳の血流が障害されることにあります。妊娠高血圧症候群、特に妊娠高血圧腎症（preeclampsia）の合併は子癇発症の大きなリスク因子です。妊娠高血圧腎症は、妊娠中に高血圧と蛋白尿を伴う状態であり、血管内皮細胞の機能障害がその病態の中心にあります。

具体的には、血管内皮細胞の機能障害により、脳血流を調節する能力が低下し、血圧が上昇すると脳の血流が適切に調節できなくなります。その結果、脳血管が拡張し、脳浮腫を引き起こし、痙攣や意識障害、視野障害などの症状が出現すると考えられています。

妊娠高血圧腎症の発症機序としては、妊娠初期から中期にかけて、胎盤の形成過程に障害が起こることが主要な原因とされています。胎盤の異常な発達によって、母体全身の血管内皮細胞機能が障害され、血圧上昇や血液凝固系の異常を引き起こすのです。

さらに、初産、妊娠高血圧腎症の既往、多胎妊娠、高齢妊娠（35歳以上）や若年妊娠（18歳以下）なども子癇発症のリスクを高める因子として知られています。

子癇の症状

子癇の発症前には、頭痛、視覚障害（物がぼやけて見えるなど）、左上腹部痛、心窩部痛といった前駆症状が現れることがあります。

子癇の典型的な症状は、痙攣発作と意識消失です。痙攣は全身に広がり、呼吸停止を伴うこともあります。意識消失の後には、昏睡状態に陥ることが多く、顔面浮腫やいびきを伴うこともあります。

子癇の診断と鑑別診断

子癇の診断は、症状と妊娠高血圧症候群の既往歴を考慮して行われます。しかし、他の疾患、例えば脳血管障害（脳出血、くも膜下出血、脳梗塞など）、脳腫瘍、代謝異常、てんかん、中毒なども同様の症状を引き起こすため、鑑別診断が必要です。

特に、意識障害の回復が遅かったり、麻痺などの神経症状が残存する場合は、子癇以外の疾患の可能性を検討する必要があります。ただし、子癇に続発して脳出血などが起こる可能性もあるため、救命を優先した治療が重要です。

子癇の治療

子癇の治療は、痙攣の制御、低酸素血症の補正、高血圧の管理、そして分娩の管理を目標とします。主な治療法としては、抗痙攣薬（硫酸マグネシウムなど）の静脈内投与、気道確保、酸素投与、降圧薬の投与、そして輸液管理などが挙げられます。

子癇の合併症

子癇は、肺水腫、誤嚥性肺炎、常位胎盤早期剥離、心不全、脳血管疾患などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特に、妊娠中の脳出血や脳梗塞は稀な疾患ですが、その多くが子癇に続発するものであり、注意が必要です。

子癇と社会問題

子癇は、適切な治療を受けられずに重篤な後遺症を残したり、死亡に至るケースもあります。医療現場における迅速かつ適切な対応、そして妊娠高血圧症候群への早期発見、早期治療が重要です。

まとめ

子癇は、妊娠高血圧症候群に関連した重篤な疾患であり、迅速な診断と治療が不可欠です。本記事で解説した内容を踏まえ、妊娠中の高血圧や異常な症状に注意し、医療機関への受診を心がけてください。

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