宇賀ダム

宇賀ダム（うがダム）

宇賀ダムは、広島県広島市安佐北区を流れる太田川水系の高山川に建設された重力式コンクリートダムです。その高さは31.5メートルを測り、中国電力によって管理される発電用ダムとして運用されています。ダムの主な目的は、下流に位置する間野平発電所へ水を供給することであり、この発電所では最大2万4,500キロワットの電力を生み出しています。

電力開発と宇賀ダムの歴史的背景

太田川水系における水力発電の歴史は古く、1912年（明治45年）に広島電灯の亀山発電所が運転を開始したことに遡ります。その後、社会の電化が進むにつれて電力需要は増加の一途をたどり、特に第一次世界大戦期には工場の電化が急速に進みました。しかし、1916年（大正5年）には太田川の水不足が発生し、供給能力が需要に追いつかない事態に陥ります。広島電灯は火力発電を併用し、また他の電力会社を吸収しながら勢力を拡大しました。同時期、広島呉電力もまた海軍の街である呉市の電気鉄道事業などを背景に勢力を伸ばし、広島県内の電力供給を二分していました。

第一次世界大戦終結後の不景気は両社の経営に打撃を与え、これを契機として1921年（大正10年）8月12日、両社は合併し広島電気が設立されました。広島電気は経営の効率化を目指し、発電所の新設や改修を推進する方針を立てます。この方針のもと、水力発電所として最初に建設が進められたのが、亀山発電所の上流に計画された太田川発電所でした。これは後に間野平発電所と改称されます。建設は1923年（大正12年）7月に始まり、1925年（大正14年）6月には運転を開始しました。当初は3台の水車発電機を備え、太田川から毎秒16.7立方メートルの水を利用し、47.3メートルの落差を用いて最大6,000キロワット（後に9,000キロワットに増強）の電力を発生させました。

間野平発電所の建設には、水利権を巡る複雑な経緯がありました。1917年（大正6年）、広島電灯が太田川上流の水利権を出願した際、競合相手となったのが日本窒素肥料（現在のチッソ）でした。同社の社長である野口遵は、広島での化学工場建設に必要な電力を確保するため、太田川の水資源に注目していました。広島電灯の取締役でもあった野口は、1919年（大正8年）に広島電灯社長を説得し、共同での水利権出願という形を取り付けます。こうして得られた水利権は、両社の共同出資で設立された中国電力（現在の中国電力とは異なる）に移管されました。しかし、中国電力による開発が進まない状況に、広島電灯（後の広島電気）は次第に野口に対する不信感を募らせていきました。

広島電気との関係悪化を察した野口は、中国電力を出雲電気に合併させ、水利権を同社に売却します。広島電気は、出雲電気が太田川での発電事業を足がかりに広島へ進出することを警戒し、高額な賃料を支払ってでも出雲電気から水利権を借り受け、発電所を運営することを選択します。この状況は1933年（昭和8年）に裁判上の和解が成立するまで続きました。

間野平発電所の再開発と宇賀ダムの誕生

戦後、太田川水系の上流には王泊ダム、立岩ダム、樽床ダムといった人造湖が次々と建設され、河川の流量状況は大きく変化しました。間野平発電所地点での年間平均河川流量は毎秒19.2立方メートルと、発電所の使用水量である毎秒7.6立方メートルを大幅に上回る状況でした。この豊富な水資源をより効率的に活用するため、中国電力は1958年（昭和33年）3月に間野平発電所の再開発に着手します。

この再開発では、新たな水路が建設され、上流の吉ヶ瀬発電所放水路や太田川の支流である水内川から毎秒20立方メートルの水を発電所へ導く計画が立てられました。この水路の途中に、水を一時的に貯めて電力需要の多い時間帯に集中して発電するための調整池として、宇賀ダムの建設が計画されたのです。発電所には新たに大型の水車発電機が1台増設され、宇賀ダムからの最大毎秒33立方メートルの水を利用して最大1万5,000キロワットの発電が可能となりました。再開発工事は1959年（昭和34年）10月に完成し、間野平発電所全体の出力は2万4,000キロワットに増強されました。その後、1986年（昭和61年）6月25日にはさらに500キロワットの増強が行われ、現在の最大出力は2万4,500キロワットとなっています。

周辺環境

広島自動車道の広島北インターチェンジから国道191号を太田川沿いに進むと、対岸に間野平発電所の建物が見えてきます。かつては3本あった露出水圧鉄管は、再開発による水車発電機の集約に伴い、現在は1本のみが確認できます。

発電所を過ぎてほどなく、太田川に合流する高山川の上流に宇賀ダムがあります。高山川は宇賀峡と呼ばれる美しい峡谷を形成し、宇賀ダムの上流側には豊かな自然が残されています。宇賀ダムの下流には、ダム完成前から間野平発電所へ水を運んでいた水路橋である水道橋が架かっています。

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