芳野金陵

芳野金陵

芳野金陵（よしの きんりょう）は、江戸時代後期の儒学者です。享和2年（1803年）に生まれ、明治11年（1878年）に亡くなりました。幼名は愿次郎、後に立蔵と称し、字は叔果、号は金陵、匏宇を用いました。生涯を通して教育者、思想家として活躍し、幕末から明治にかけての激動の時代に、その才能を発揮しました。

生涯

下総国葛飾郡松ケ崎村（現在の千葉県柏市）で、儒医の次男として生を受けました。幼少期は母方の実家がある小文間村（現在の茨城県取手市）で過ごしました。14歳で京都に上り、父から儒学の基礎を学びました。一時帰郷した後、22歳で亀田綾瀬に師事し、本格的に儒学を学び始めます。

文政9年（1826年）には、浅草福井町（現在の東京都台東区浅草橋）に私塾「逢原堂」を開設しました。この塾は、幕末の動乱期に多くの門下生を集め、その数は1400人にも及んだと記録されています。門人帳である「執贄録」「登門録」には、当時の多くの若者が名を連ねました。

しかし、天保年間には3度も火災に見舞われ、生活は困窮を極めました。弘化4年（1847年）には、駿河田中藩主・本多正寛の招聘に応じ、藩の儒員となります。ペリー来航の際には、老中・久世広周に国防策を建議するなど、政治的な見識も発揮しました。また、藩財政の改革や文教の刷新にも尽力しました。

文久2年（1862年）には、桜田門外の変後に実権を握った松平春嶽との親交から、幕府に召し抱えられ、御儒者となりました。昌平黌の学制改革を建議しましたが、これは実現には至りませんでした。

明治維新後、明治元年（1868年）には、新政府の要請で昌平学校（後の大学）の二等教授に就任、翌年には大学少博士、さらに中博士となりました。しかし、明治3年（1870年）に同校が廃止されたため、官職を離れました。その後、新暦1873年（明治6年）には、大塚（小石川窪町）の旧守山藩邸跡地を購入し、開墾に従事しました。翌年には大塚に転居し、私塾を開いて後進の育成に励み、77歳でその生涯を閉じました。大正13年（1924年）には、その功績を称えられ、従五位を追贈されました。

墓は、千葉県柏市松ケ崎の覚王寺と、東京都台東区谷中の天王寺にあります。

当時の儒学者の中では、安井息軒、藤田東湖と親交が深く、門弟には小澤酔園、近藤南洲、信夫恕軒などがいました。

家族

長女の菅子は、福井藩奥向きに仕え、松平慶永付の「年寄」となりました。三男の桜陰は、出奔して天狗党の乱に参加しています。四男の世経は、私立逢原学校を開校したほか、東京府会議員、衆議院議員、東京市会議員などを歴任しました。

著作

『金陵詩抄』
『金陵文抄 : 譚故書余. 乾之巻』
『金陵遺稿』1-4

参考文献

渡辺政輿『金陵先生行実』（『金陵遺稿』10）
松下忠『江戸時代の詩風詩論』明治書院、1969年
亀山聿三・編『芳野金陵先生碑文集』夢硯堂、1972年
* 二松学舎大学・柏市教育委員会共催『企画展　芳野金陵と幕末日本の儒学』二松学舎大学附属図書館、2015年10月。

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