安房峠

安房峠について

安房峠は、岐阜県高山市（旧吉城郡上宝村）と長野県松本市（旧南安曇郡安曇村）の境界に位置する標高1,790mの峠です。飛騨山脈の南部に位置し、アカンダナ山と安房山の鞍部にあたります。ここは、神通川水系の高原川支流である安房谷と、信濃川水系の梓川支流との分水嶺となっています。

地理と交通

安房峠は、上高地への玄関口としてだけでなく、岐阜県側、長野県側ともに北アルプスの山麓観光地として栄えています。かつては国道158号がこの峠を通り、狭く曲がりくねった道に交通が集中し、行楽シーズンには大型バスの通行も困難なほどの大渋滞が発生していました。峠の前後には連続するヘアピンカーブがあり、特に大型車両は何度も切り返しが必要でした。また、冬季は11月中旬から5月中旬まで通行止めとなり、車両の通行ができませんでした。しかし、1997年に安房峠道路が開通したことで、年間を通じての通行が可能となり、交通状況は大幅に改善されました。かつては、この区間を走る路線バスには車掌が乗務し、渋滞時にはバスを降りて対向車を誘導していたそうです。

歴史

安房峠の名前は、日蓮が修行のためにこの峠を越えた際、自身の出身地である安房国にちなんで名付けたという説があります。現在では安房峠として知られる場所より南、鎌倉街道が通っていた場所は、古くは「大峠」や「平井峠」「平湯峠」「信濃峠」などと呼ばれていました。飛騨側では「ザラ峠」と呼ばれ、服部英雄らはこれを「古安房峠」と仮称しました。

戦国時代には、武田晴信の軍勢が1559年と1564年の二度にわたり、安房峠を越えて飛騨国に侵攻しています。この際の逸話が平湯温泉開湯の伝承につながっています。関ヶ原の戦いでは、東軍の武将である金森可長が安房峠を通って平湯村に進軍しました。江戸時代には、平湯番所が廃止されましたが、地元の生活道路としては使われ続けました。大正時代に入り、1912年に陸地測量部の地図に現在の安房峠が記載され、1915年頃には平湯と上高地を結ぶ観光道路として利用されるようになりました。1924年には、上宝村の教師である篠原無然が、大雪の中峠越えを強行し、峠の頂上付近で遭難し凍死するという痛ましい出来事がありました。峠には、彼が詠んだ歌の歌碑が建てられています。1938年には、中の湯と平湯間の道路が拡幅・舗装され、車両の通行がより容易になりました。そして1997年、安房峠道路が開通し、通年での安全な通行が可能になったのです。

現在

現在、安房峠は、安房峠道路の開通により、かつての難所という印象は薄れました。しかし、その歴史と自然は今もなお多くの人を魅了しています。峠の周辺は、豊かな自然に恵まれ、四季折々の美しい景観を楽しむことができます。特に紅葉の時期には、多くの観光客が訪れます。安房峠道路は、上高地へのアクセスルートとしても重要な役割を担っており、周辺の観光地を訪れる人々にとって、欠かせない道となっています。

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