安曇川駅 (江若鉄道)

安曇川駅：近江の地に栄えた、そして消えた鉄道の駅

滋賀県高島市安曇川町に存在した安曇川駅は、かつて江若鉄道を支えた重要な駅の1つでした。1929年（昭和4年）、江若鉄道大溝駅から安曇駅（現在の安曇川駅）までの延伸開業に伴い、「安曇駅」として誕生しました。駅名は、当時の高島郡安曇村に由来しています。開業当時は、長年待ち望まれた鉄道の開通に、地域住民は盛大な祝賀会で喜びを分かち合ったと伝えられています。

安曇駅は、その後1931年（昭和6年）の路線延伸により、近江今津駅まで繋がる重要な拠点となりました。そして、安曇村が町制施行と合併を経て安曇川町となったことに伴い、駅名も「安曇川駅」へと改称されました。

安曇川駅は、単なる旅客駅ではありませんでした。列車交換が可能な交換駅であり、島式ホームを有し、旅客輸送に加え、貨物輸送も盛んに行われていました。駅構内には貨物用のホームや側線が設けられ、特に木材の集積場は規模が大きく、近隣の朽木村から切り出された木材の輸送において重要な役割を果たしていました。朽木村の山間部から切り出された木材は、従来琵琶湖の水運に頼っていましたが、安曇川駅の開業により、鉄道輸送が新たなルートとして加わったのです。この木材輸送は、安曇川駅の重要な役割の1つであり、地域の経済を支える上で大きな貢献をしました。

駅周辺には、旅館や食堂などが立ち並ぶ賑やかな商店街が形成され、駅に隣接するバス車庫からバスが発着していました。安曇川町は、江戸時代の儒学者である中江藤樹ゆかりの地であり、安曇川駅は藤樹書院跡や藤樹神社への最寄り駅として、多くの観光客で賑わっていました。特に戦前・戦中期の修身教育において中江藤樹の教えが重視されたことから、これらの史跡は高島郡内有数の観光スポットとなり、江若鉄道の観光パンフレットにも頻繁に登場していました。駅には観光案内板が設置され、中江藤樹ゆかりの史跡に加えて、朽木スキー場や朽木渓谷などの朽木村の名所も紹介されており、朽木方面への観光の玄関口としての役割も果たしていました。

しかし、1969年（昭和44年）10月31日に江若鉄道が営業を終了したことに伴い、安曇川駅も翌11月1日に廃止となりました。その後、湖西線が建設され、安曇川駅は新しい駅として生まれ変わりましたが、旧江若鉄道安曇川駅の跡地は現在、その面影を残していません。

安曇川駅の存在は、地域の経済や文化、そして人々の生活に深く関わっていました。その歴史は、多くの文献資料や写真、そして地域住民の記憶の中に生き続けています。かつての賑わいを偲びながら、安曇川駅の軌跡を辿ることは、地域の豊かな歴史を理解する上で貴重な体験となるでしょう。

隣の駅

水尾駅
新旭駅

安曇川駅と新旭駅の間には、江若鉄道で最長の橋梁である安曇川橋梁が架かっていました。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
今尾恵介（編著）『新・鉄道廃線跡を歩く』 4（近畿・中国編）、JTBパブリッシング、2010年
大津市歴史博物館 編『企画展 ありし日の江若鉄道 ―大津・湖西を結ぶ鉄路（みち）―』大津市歴史博物館、2006年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
竹内龍三「私鉄車両めぐり(70) 江若鉄道」『鉄道ピクトリアル』第17巻第1号（通巻192号）、鉄道図書刊行会、1967年1月
田中真人、宇田正、西藤二郎「第16章 琵琶湖の首飾り―江若鉄道・湖西線」『京都滋賀 鉄道の歴史』京都新聞社、1998年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング〈NEKO MOOK〉、2010年
「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

もう一度検索