安芸氏

安芸氏：土佐を彩った一族の興亡

安芸氏は、戦国時代に長宗我部元親によって滅ぼされた土佐国の国人領主です。土佐国東部の安芸郡を拠点とし、地域に大きな影響力を持っていました。

出自の謎

安芸氏の出自は諸説あり、はっきりとしたことはわかっていません。有力な説としては、壬申の乱で大友皇子（弘文天皇）に味方し、土佐へ配流された蘇我赤兄の子孫が土着し、勢力を拡大したというものがあります。しかし、『南路志』には橘姓を名乗り、橘紋を使用していたという記述や、『阿波古城記』に橘氏と記載されていることから、橘氏の流れを汲む可能性も指摘されています。

また、「安芸氏系図」では蘇我赤兄の子を「惟宗行躬」としていますが、これは長宗我部氏が秦氏を名乗ったこととの関連性が考えられています。

長保2年（1000年）に補陀落渡海を行った土佐国安芸郡大領・蘇我兼広や、その子・蘇我兼実、長元元年（1028年）に土佐権介として見える曽我部如光、永承5年（1050年）に土佐介として見える曽我部正任らは、蘇我氏ではなく蘇我部の末裔であると考えられています。

『平家物語』や『源平盛衰記』には、「土佐国の住人安芸郷を知行しける安芸大領実康」や、その子・安芸太郎実光（真光）、次郎某、「阿波国住人安芸大領という者が子」・安芸太郎時家の名前が見えます。

『古城伝承記』によれば、安喜備後守国虎は蘇我赤兄の末裔で、平家滅亡の時に平教経と組んで入水した「安喜太郎」の子孫であるといわれています。

室町時代の隆盛

室町時代に入ると、安芸氏は香美郡大忍庄へ侵攻し、勢力を拡大しました。安芸川という交通の要衝を利用した貨幣経済の発展と、土佐の土地経営を巧みに活かしたことが、その成長の要因と考えられています。しかし、永享11年（1439年）に当主の安芸元実が摂津国内で戦死し、分家の畑山氏から安芸元信が養子に迎えられました。応仁の乱では東軍（細川勝元方）に加勢した元信とその嫡男・元康が戦死するなど苦境に見舞われましたが、元信の弟である安芸元盛が当主となり、家を立て直しました。以降、勢力拡大は停滞したものの、戦国時代には「安芸5000貫」と称されるほどの土佐東部を代表する大国人として君臨し、その勢力を維持しました。

大永6年（1526年）には、隣接する七雄の一つである香宗我部氏を破り、勢力を拡大。元盛の曾孫・安芸国虎の代には、土佐一条氏と姻戚関係を結び、全盛期を迎えました。

長宗我部氏との対立、そして滅亡

香宗我部氏を破ったことが、長宗我部氏との緊張関係を生み、永禄年間の初期、国虎が長宗我部元親の属領である香美郡夜須に侵入したことで、両家は敵対関係に入りました。当初は本山氏攻略に注力していた元親に対し、一条兼定の援軍を得た国虎が優勢に立ち、一時、元親の居城・岡豊城を落城寸前にまで追い込みましたが、一条兼定の仲介により一時和睦しました。しかし、永禄12年（1569年）4月、国虎は一条兼定の援軍を得て和睦を破棄し、再び元親と敵対。この時、元親は本山氏を降伏させ、土佐中部を制圧しており、両者の力関係は逆転していました。同年7月、矢流川合戦で安芸軍は敗北。支城も次々と長宗我部軍に落とされ、国虎は安芸城に籠城しましたが、家臣の裏切りにより元親が城内に侵入し、国虎は自害。遺児である千寿丸（弘恒）は阿波へ逃れ、安芸氏は滅亡しました。

安芸氏の旧領は、元親の実弟・香宗我部親泰が支配し、長宗我部氏の四国征服の原動力となりました。

室町時代の当主

室町時代の安芸氏は、土佐守護を兼ねる細川京兆家の麾下にあり、歴代当主は京兆家当主から偏諱を受けていました。

安芸元重（大蔵）← 細川満元
安芸元実（摂津守）← 細川満元または細川持元
安芸元信（伊豆守）← 細川勝元
安芸元盛（兵部少輔）← 細川勝元
安芸元親（備後守）← 細川政元
安芸元泰（山城守）← 細川政元
* 安芸国虎（備後守）← 細川高国

安芸氏は土佐の歴史に名を刻んだ一族として、その名は今も語り継がれています。

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